研究課題/領域番号 |
22K19308
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分44:細胞レベルから個体レベルの生物学およびその関連分野
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
五島 剛太 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (20447840)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2024年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2023年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 海藻 |
研究開始時の研究の概要 |
動物・植物・酵母の方法論を適用し、海藻の分子細胞生物学の基盤確立に挑戦する。もし研究が成功すれば、モデル動植物で日常的に行われている実験が可能になる系が初めて立ち上がることになり、波及効果は大きい。海藻の発生、細胞生理、環境応答、受精などの知見の蓄積を加速させるなど、これまでの海藻の生物学の体系を大きく変革させる潜在性を有する。また、モデル海藻と共生細菌から生理活性物質「海藻ホルモン」を見つけ出すことで創薬分野などへの貢献が見込めるなど、研究成果の多分野への波及が見込める。
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研究実績の概要 |
モデル動植物(線虫、シロイヌナズナ等)は、ヒトの体の発生、病気の理解や、植物育種のための基盤技術創生などに大きな貢献を果たしてきたが、海藻については、モデル実験系が存在しないことで、発生、細胞生理、環境応答、受精など、あらゆる分野において知見が決定的に欠けている。先端テクノロジーを使った育種を見据えて、海藻の生物学を理解するためには、実験系の構築は重要である。本研究では、実験モデルとなる海藻を確立することが目標である。 モデルとしての条件として4つ考えられる。1)幅広い種に備わる特徴的な性質を有していること。2)実験室での培養が容易であること。例えば無性増殖する種は有力である。3)ライブセルイメージングや免疫染色といった細胞生物学手法が適用できること。4)分子遺伝学操作ができること。 初年度は採取した海藻のうち、緑藻・ハネモについて、継代培養や細胞内構造体(微小管・アクチン)の免疫染色に成功した。今年度は、ハネモの全ゲノム配列を解読し、ハネモがどういった特徴的な遺伝子を有しているか、解析を進めた。海藻のDNAを抽出すると、共生する細菌のDNAも大量に混ざってくるため、海藻の全ゲノム解読は難易度が高いとされる。今回、配列解析を通じてハネモDNAだけを選び出し、高い精度での解読に成功した。さらに、比較ゲノムの対象を緑藻全体に広げ、どういった遺伝子群がどの緑藻で発達したか、それがその緑藻のライフスタイルとどう結びついているか検討した。ハネモの特徴である高い再生能力を支える遺伝子のハネモ特異的な著しい重複などを見出した(Ochiai et al. submitted)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
海藻1種の全ゲノムの高い精度での解読に成功したため。その研究の概略:海藻のゲノム解読の最大のネックは、海藻に共生する微生物由来のDNAとハネモ由来のDNAを区別することが困難なことだった。今回、ハネモ培養中に減菌操作を行ったことと、緻密な生物情報解析により、両者を分けることに成功した。その結果、ハネモの全ゲノムは29の配列断片群に構築された。これは現在知られている大型緑藻のゲノムと比較しても非常に精度が高く、ゲノム情報の乏しい海藻における大きな知見となると言える。一方、比較ゲノム解析により、ハネモでは他の大型緑藻で発達しているミオシン遺伝子が1個しか見つからなかった一方、キネシン遺伝子は34個も見つかった。加えて、薬剤添加によりキネシン-微小管系を阻害することでハネモ細胞内の葉緑体の動きが抑制されたことから、ハネモの細胞内輸送はキネシン-微小管系が主導している可能性を示唆した。さらに、ハネモ原形質が再生時に凝集する際に関わるとされるレクチン遺伝子BPL-1が15個も見つかった。他の再生能力の低い大型緑藻ではBPL-1遺伝子は全く見つからなかったことから、BPL-1遺伝子の大規模な重複によりハネモの再生能力の高さが維持されている可能性を示唆した。
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今後の研究の推進方策 |
モデルとしての条件を満たす海藻を見つけ出し基礎技術を確立するためには、(1)ゲノムの解読、(2)共生細菌の同定、(3)細胞内ダイナミクスの可視化、は重要である。以下の経緯で、確立を目指すモデルとして緑藻のハネモが有望となったので、ハネモ研究を中心に今後も研究を推進する。一般に、ゲノムを明らかにすることで遺伝子のプロファイルをつくることができ、その生物における遺伝学や分子生物学、分類学などの様々な研究の発展が見込める。しかし、海藻においては全ゲノムが解読された例が少なく、動植物や菌類と比較して遅れをとっている状況だった。これまでの研究では、大型の海藻であるハネモの全ゲノムを、海藻では例外的な高精度で解読した。ハネモは10 cm以上に成長するにも関わらず、たった1つの単細胞からできている海藻である。この巨大な単細胞がどのようにして体を形づくっているのかについてはとても興味深いが全く明らかになっていない。また、ハネモは再生能力が非常に高いことが知られ、海水中に拡散した原形質からでも元の状態にまで再生して成長することができる。この再生に関わる機構についてもほとんどがわかっていない。ハネモの室内での安定的な培養方法を確立することで、実験生物として誰でもハネモを扱えるようにした一方、ハネモの全ゲノムを解読することでハネモの性質に迫る実験の基盤を構築した。24年度は(2)(3)を中心に研究を進める。ゲノム解析技術が向上したので、メタゲノム解析から(2)を進展させられると期待している。
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