研究課題/領域番号 |
22K19310
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分44:細胞レベルから個体レベルの生物学およびその関連分野
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
佐倉 緑 神戸大学, 理学研究科, 准教授 (60421989)
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研究分担者 |
佐藤 拓哉 京都大学, 生態学研究センター, 准教授 (30456743)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2023年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
2022年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
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キーワード | 偏光視 / 宿主操作 / 寄生 / 偏光走性 / 複眼 |
研究開始時の研究の概要 |
多くの寄生者は自らの生存のために宿主操作を行うが、その神経機構には不明な点が多い。近年我々はハリガネムシに寄生されたカマキリ目昆虫が、水面からの反射光に含まれる水平偏光に誘引され、ハリガネムシが繁殖可能な水域へ入水する可能性を示した。本研究では、カマキリの水面からの偏光受容に関わる感覚情報処理経路とハリガネムシの寄生によって起こる変化を行動学的・組織学的・電気生理学的に明らかにすることで、偏光走性が入水行動に与える影響を評価し、寄生者による宿主操作のメカニズムとその生態学的意義を考察することを目的とする。
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研究実績の概要 |
多くの寄生者は自らの生存のために宿主操作を行うが、その神経機構には不明な点が多い。近年我々はハリガネムシに寄生されたカマキリ目昆虫が、水面からの反射光に含まれる水平偏光に誘引され、ハリガネムシが繁殖可能な水域へ入水する可能性を示した。そこで本研究では、カマキリの水面からの偏光受容に関わる感覚情報処理経路とハリガネムシの寄生によって起こる変化を行動学的・組織学的・電気生理学的に明らかにすることで、偏光走性が入水行動に与える影響を評価し、寄生者による宿主操作のメカニズムとその生態学的意義を考察することを目的としている。 今年度は以下の2点について解析をすすめた。 1) 偏光センサー応答の電気生理学的解析:昨年度までに、カマキリの複眼のうち、宿主操作の際に水面からの反射光を受容するであろう前方腹側の個眼集団について、寄生によって感度の上昇が起こることが示唆されていた。今年度はこの感度上昇に寄与する個眼の領域を探るため、複眼を部分的に遮蔽した個体を用いて、水平偏光に対する感度をERG(網膜電図)測定によって電気生理学的に解析した。その結果、感度上昇には領域による顕著な差異は見られなかった。 2) 昨年度に引き続き、カマキリ個眼の微細構造の透過型電子顕微鏡による観察をすすめ、水平偏光の検出に特化した個眼の有無について解析をすすめた。今年度は特にSVF-SEMによる観察から、光受容部位であるラブドームのねじれが生じているかどうかについて調べ、腹側の個眼では顕著なねじれはなく、少なくとも視細胞のレベルでは偏光感受性を有していると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題では、カマキリの水面からの偏光受容に関わる感覚情報処理経路と、ハリガネムシの寄生によって起こる変化を明らかにすることで、偏光走性が入水行動に与える影響を評価し、寄生者による宿主操作のメカニズムとその生態学的意義を考察することを目的としている。昨年度から行っている個眼の微細構造を調べるためのTEM試料の作成条件、特にサンプルの固定条件の検討に時間がかかったため、まだ十分なデータが得られていない。今年度の実験から、サンプルの作成方法とデータ解析の条件についての絞り込みはほぼ終了したため、来年度も引き続きデータを取得し、最終目的であるモデル検証を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度よりすすめている、個眼の光受容部位である感桿の体積や視細胞の微絨毛配列の組織学的解析により、カマキリの複眼における水平偏光受容のメカニズムを解明するとともに、寄生による偏光感度変化との関係について考察する。 また、これまでの行動学的・生理学的・組織学的実験の結果を踏まえ、モデル検証によって、個体レベルで起こる偏光走性の変化で自然環境における生じる入水頻度の空間分布をどの程度説明できるかを評価することで、ハリガネムシ個体群の存続可能性やハリガネムシによって起こるエネルギー流の重要性を明らかにし、寄生者による宿主操作のメカニズムとその生態学的意義について考察する。
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