研究課題/領域番号 |
22K19316
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分44:細胞レベルから個体レベルの生物学およびその関連分野
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
武田 鋼二郎 甲南大学, 理工学部, 教授 (90426578)
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研究分担者 |
鈴木 淳 京都大学, 高等研究院, 教授 (30511894)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 5,200千円 (直接経費: 4,000千円、間接経費: 1,200千円)
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キーワード | ポリリン酸 / ポリリン酸関連タンパク質 / スクリーニング / 分裂酵母 / リン酸 / 代謝 / 酵母 / 哺乳類 |
研究開始時の研究の概要 |
リン酸が直鎖状に重合したポリリン酸(polyP)は,全生物が有し,ヒトの健康や農業にも関連性が深い多彩な生理機能が報告されている。しかし,細菌や,真菌などの単細胞真核生物ではpolyP合成酵素が発見されているものの,多細胞生物でははっきりしないのが現状である。本研究はpolyPを大量に合成する分裂酵母の特長を活かして「試験管」のように用い,知見に乏しい多細胞生物のpolyP関連タンパク質の同定に挑戦する。成功すれば,基礎・応用の両面でのインパクトは大きく,特にほ乳類でのこれらの因子群の同定は,制約が多かったpolyP研究の基礎医学面でのブレイクスルーとなることが期待される。
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研究実績の概要 |
数十から数百ものリン酸が直鎖状に重合したpolyPは、多彩な生理機能をもつ生体高分子であり、すべての生物が有する。また、近年、医学、農学、基礎生物学における、polyPの重要性が注目されている。しかしながら、多細胞生物においてはpolyP合成因子について知見が乏しいため、分子生物学的な手法でpolyP研究を進めるためには制約があった。本研究は、polyP代謝因子が理解されているモデル生物である分裂酵母を用いて、多細胞生物のpolyP合成酵素をはじめとした関連因子の発見に挑戦する。 2022年度は、(1) 分裂酵母用ベクターを用いたヒトcDNAライブラリーの構築、(2) 分裂酵母スクリーニング系の改良、(3) 分裂酵母の細胞内polyPの必須性に関する研究、を実施した。(3)はスクリーニングのために、分裂酵母polyP代謝の基盤的知見をかためるうえで必要な研究である。以下はそれぞれについての概要である。 (1) 目的の達成には高性能のcDNAライブラリーが必須である。当該分野のエキスパートである鈴木淳教授(京都大学)を研究分担者として、ヒト培養細胞から精製したmRNAを用いてcDNAを合成、分裂酵母用発現プラスミドをベースとしてcDNAライブラリーを作製した。比較的長いcDNAと短いcDNAに分けて作業を進め、それぞれ十分なクローンサイズ(200万と40万)のライブラリー作製に成功した。 (2) 分裂酵母細胞内polyPの可視化とセルソーターを用いた解析法の向上を図った。また、大腸菌polyP合成酵素過剰発現の細胞毒性を指標とした、polyP関連因子スクリーニング系の最適化に取り組み、課題の洗い出しに成功した。 (3) 分裂酵母におけるpolyP合成酵素VTC複合体と、リン酸排出因子、リン酸取り込み制御因子の三者の必須性を明らかとした研究を推進し、学術論文を完成させた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に記した(1)-(3)について、それぞれの進捗状況は以下の通りである。 (1) 研究の成否に関わるcDNAの構築は、研究分担者の協力もあって、非常に順調に進み、2022年度中に完成した。分裂酵母発現ベクターも独自の改良(不要配列の除去による短小化)を加えている。 (2) [polyP合成酵素探索] 分裂酵母細胞内に形成されたpolyPを蛍光色素DAPIで染色する方法は既に確立させているが、さらにpolyPライブイメージングのための技術開発を行い、今までのところ順調に進展している。しかしながら、ライブイメージング法のシグナル/ノイズ比は、DAPI染色法と比べて劣っており、スクリーニングにはDAPI染色法を用いる方向で検討している。[polyP関連因子探索] 大腸菌PPK過剰発現がもつ細胞毒性を利用して、その毒性を緩和するヒト遺伝子のスクリーニング法の最適化を進めた。小規模のスクリーニング実施を行なった結果、偽陽性(導入したヒトcDNAに依存せずにPPK過剰発現誘導に耐性を示す分裂酵母株)が予想以上に高頻度で発生することが判明した。したがって、偽陽性の発生を抑制するため方法を考案し、その実現に向けた作業を開始した。 (3) 2022年度末にJBC誌に論文投稿し、現在(2023年5月)、論文リバイスのための実験を行なっている。
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今後の研究の推進方策 |
(1) ヒトcDNAライブラリーは、2022年度に構築が成功した。今後、このcDNAライブラリーを実際に使用する段階に移る。 (2) [polyP合成酵素探索] DAPIを用いたpolyP蛍光染色とセルソーターを組み合わせたスクリーニングを実施することが2023年度の課題である。すでに判明している問題点として、DAPI染色時には細胞をグルタルアルデヒド固定、細胞壁消化、Triton X-100処理が必要であるが、この操作を行うことで、細胞に導入したcDNAの解析が著しく困難になること(PCR反応効率が低下する)が挙げられる。忍耐強く条件検討を行い、用いる試薬濃度を最適化することで、PCR効率は向上している。条件検討と並行して、小規模のスクリーニングを実施し、さらなる問題点の洗い出しを経て、規模の大きなスクリーニングを実施する予定である。 [polyP関連因子探索] 偽陽性発生率を低減させる作業は順調に進行しており、同様に、小規模スクリーニングによる問題点洗い出しを検討する段階にある。2023年度中に大規模スクリーニングに移行することが当面の目標である。 (3) 投稿中の論文の出版が目標である。この論文において、分裂酵母のリン酸排出因子の遺伝子破壊株は、ある条件においては高リン酸濃度に対して超感受性を示すことが判明した。この表現型を抑制するヒト遺伝子のスクリーニング系の構築の検討を開始した。ヒト細胞レベルでのリン酸恒常性維持は完全な理解には至っておらず、新規因子の同定は意義がある。リン酸恒常性維持に関わる新規因子は、広義ではpolyP関連因子であり、それらの同定を目指すスクリーニングは本研究の方向性に沿ったものである。
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