研究課題/領域番号 |
22K19332
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分44:細胞レベルから個体レベルの生物学およびその関連分野
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
坂本 浩隆 岡山大学, 自然科学学域, 教授 (20363971)
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研究分担者 |
池永 隆徳 鹿児島大学, 理工学域理学系, 准教授 (50553997)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2024年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2023年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2022年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | かゆみ / 痛み / バイオセンシング / ゼブラフィッシュ / ガストリン放出ペプチド |
研究開始時の研究の概要 |
「痛み」は、生命の危機を認識させる警告であり、それらに適切に対処することは動物のホメオスタシスを維持する上で重要である。一方、「かゆみ」は小さな痛みだと考えられてきたが、生命の危機を認識させる警告ではない。ではなぜ「かゆみ」を感じるのか?近年マウスでガストリン放出ペプチド(GRP)という神経ペプチドが「かゆみ特異的伝達分子」として報告され、「痛み」との機構的乖離が提唱された。しかしながら進化の過程でいつから生物はかゆみを獲得したのか、その生物学的意義は何かについては全く不明である。本研究では、魚類のゼブラフィッシュを材料とした研究を突破口として、「かゆみ」感覚の包括的かつ先端的解析を行う。
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研究実績の概要 |
痒みは掻きたいという衝動(掻痒覚)を誘発する皮膚感覚、痛みは体の損傷等に起因する不快な感覚(痛覚)と定義され、ともに生体の警告信号として重要な皮膚感覚である。哺乳類では、痒みは掻破行動、痛みは逃避行動が指標とされている。古くから痒みは小さな痛みと考えられており、痛みと痒みの違いについてはあまり議論されていなかった。近年、哺乳類において神経ペプチドであるガストリン放出ペプチド(GRP)とGRP受容体発現ニューロンからなるGRP系が痒みを特異的に伝達していることが報告され、痒みと痛みが別感覚であることが提唱されている。GRP受容体ノックアウト(KO)マウスでは、痒み刺激に対する掻破行動が報告されている。これらの皮膚感覚に関する研究はほとんどが哺乳類を対象としており、それ以外の脊椎動物については議論が不十分である。所属研究室では魚類でもこれらの体性感覚の存在を示唆しており、GRP系の存在も報告している。しかし進化の過程での「痛み」と「痒み」の皮膚感覚や、GRP系の関与も不明である。本研究では、かゆみ、痛みについて未解明である魚類を材料とした研究を突破口として、「かゆみ」感覚の包括的かつ先端的解析を行う。魚(ゼブラフィッシュ)が「かゆみ」を感じているのかを行動レベルで評価し、その分子・神経回路メカニズムまでを明らかにすることを目指す。これらの結果から、なぜ我々が「痛み」とは別に「かゆみ」を感じる必要があるのかという大きな疑問の解明に挑む。本研究の発展は、「かゆみ」の進化起源とその生物学的意義の解明につながり、感覚研究の学術体系やその方向性をも大きく変革させる契機となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではまず、かゆみ/痛み様感覚が魚類で存在するかを明らかにするために、ゼブラフィッシュ成魚を用いて起痒物質候補のヒスタミン・イミキモド、発痛物質候補のAITCを腹ビレ基部へ局所投与し、かゆみ、および痛み刺激への反応性の違いを行動レベルで評価した。投与後60分を解析した。ヒスタミン、イミキモドでは、腹部を水槽にこする/打ちつける「かゆみ様行動」が投与量依存的に増加した。一方で、AITCではどの濃度でもそれらの行動はみられなかった。さらに動画解析ソフトMove-tr/2Dを用い、移動量、水槽の上部下部の滞在を定量化した。やはりAITC特異的な行動はみられなかった。こちらには、ヒスタミン・イミキモドの効果もなかった。今回AITCによる痛み様行動は特定できなかった。以上の結果から、ゼブラフィッシュにおいて、少なくともかゆみ感覚が存在することが示唆された。先行研究ではゼブラフィッシュの上唇へAITCを注入すると痛み様行動が起こることが報告されている。体の部位によって感覚の受容性が異なるのかもしれない。 次いで、かゆみ様感覚の伝達へのGRP系の関与を検証するため、GRPR-KOゼブラフィッシュを系統化し、起痒物質候補を用いて同様の投与実験を行った。KO魚では野生型に対し、ヒスタミン投与時のかゆみ様行動がコントロール投与時と同程度まで減少した。イミキモドでは変化がみられなかった。以上から、かゆみ感覚の伝達経路のうちヒスタミン起因性にはGRP系が不可欠である可能性が示された。 以上のようにおおむね順調に進展しているものと自己評価している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究により、野生型ゼブラフィッシュ成魚は起痒物質であるヒスタミン、イミキモドの刺激に応答して水槽の角などに投与部位を打ちつける、腹部を水底でこすりつける「かゆみ様行動」が増加した。また、これらの行動は発痛物質であるAITCではどの濃度においても増加しなかった。これらのことからゼブラフィッシュの成魚はかゆみ刺激と痛み刺激を区別して受容することが示唆された。先行研究ではゼブラフィッシュ上唇にAITCを注入すると痛み様行動が報告されていることから体の部位によって痛み感覚の受容能が異なるのかもしれない。今後は、この比較を行うために、GRPR-KOゼブラフィッシュ上唇に発痛物質候補のAITC、および起痒候補物質であるヒスタミン、イミキモドを投与して、行動解析を行なっていく予定である。さらに感覚に関わる神経伝達機構とGRP系との関連を検討するため、脳内におけるGRPR発現細胞をin situ hybridizationを用いて解析していく予定である。本研究から魚類でもかゆみ感覚が存在し、かゆみ伝達にはGRP系が必須である可能性が示唆された。進化の過程で魚類と四足動物の共通祖先で「かゆみ」感覚の伝達系が獲得されたと考えられる。
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