研究課題/領域番号 |
22K19338
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分45:個体レベルから集団レベルの生物学と人類学およびその関連分野
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
宮川 一志 宇都宮大学, バイオサイエンス教育研究センター, 准教授 (30631436)
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研究分担者 |
宮川 美里 (岡本) 宇都宮大学, バイオサイエンス教育研究センター, 学振特別研究員 (00648082)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2023年度: 3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2022年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
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キーワード | 雄性発生 / ウメマツアリ / 近親交配回避 / 染色体挙動 / 繁殖戦略 / 侵略アリ |
研究開始時の研究の概要 |
アリ類は元来、近親交配に非常に弱く遺伝的多様性の低い集団を維持できないにもかかわらず、侵入に伴う遺伝的ボトルネックを克服し世界中に分布域を拡大している。本研究は2005年以降、侵略種で次々と明らかになっている「近親交配を回避する特殊な繁殖様式」について、代表種であるウメマツアリを用いて発生初期胚の遺伝子発現と染色体挙動を解析し、雄卵発生に伴う雌ゲノム消失や、単為生殖による新女王卵の形成に関わる遺伝子とその発生機構を解明する。これらの実験を通して、少数個体でも新天地への定着や個体群の拡大を可能にする侵略アリの遺伝子進化について考察する。
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研究実績の概要 |
アリ類は近親交配に弱いにも関わらず、侵入に伴う遺伝的ボトルネックを克服し世界中に分布している。ウメマツアリは新女王(雌)は母系のみ、雄は父系のゲノムのみ受け継ぎ生産される(雄性発生)ため、雌雄間に実質的な遺伝子交流がなく兄妹間の交尾でも近親交配に不妊雄は生じない。本研究は、ウメマツアリで見られるこの近親交配を回避する特殊な繁殖様式の進化遺伝学的基盤を、卵巣内の卵母細胞や胚のRNA-seq、胚発生のライブ観察および機能解析によって解明する。 2022年度はまず、野外サンプリングを行い、研究に用いるウメマツアリコロニーを採取し研究室で継代飼育を開始した。採集したコロニーについてはマイクロサテライトマーカーを用いて親子の遺伝的関係を解析し、上記の特殊な繁殖様式を行っていることを確認した。また、2023年度の繁殖シーズンに行うRNA-seqサンプル調整に向けて、飼育コロニー個体を用いてRNA抽出方法の最適化を行い、実験に必要なサンプル数の算出やライブラリー作成手法の検討を行った。 続いて飼育コロニーを用いて、胚発生過程における染色体挙動を、固定胚をDAPI染色することで観察した。その結果、産卵直後のワーカー胚において減数分裂によって放出された極体や雌性前核、および精子核と思われる像を確認することができた。得られた像から胚発生初期の進行のタイムテーブルを推定した。 最後に、胚発生のライブ観察に必要なマイクロインジェクションの手法を検討し、技術の習熟を行った。シリカゲルを使用しインジェクション前に胚を十分に乾燥させることで試薬を注入する余裕が作れることが確認できた。 以上の結果より、2022年度に予定していた事前実験の多くを予定通り完了した。特にマイクロインジェクションは繊細な作業であり技術の習熟に時間がかかる可能性があったが、学生を含め複数人が実施可能な体制ができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本種アリは原則として年に1度、5月から6月にしか繁殖虫である新女王や雄アリを産出しない。したがって、繁殖システムの分子機構の解明を目指す本研究においては、この繁殖シーズンに研究に十分なサンプルを取得することが肝要である。 繁殖シーズンに必ず行わなければならない作業は、「RNA-seqサンプルの調整」および「胚のライブ観察像の取得」である。これらのサンプルやデータを非繁殖シーズンのものと比較することで初めて有意義なデータとなるため、取得は必須である。したがって、2023年の繁殖シーズンに確実にこれらのサンプルやデータが取得できるよう、2022年度はRNAの抽出方法の検討や、観察すべき胚のステージの選抜、マイクロインジェクション技術の獲得などに専心し、そのほとんどを完了した。2022年度の実験結果より、2023年度に予定通り繁殖シーズンの実験を遂行できる状況が整ったため、研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は2年間の本研究の最終年度であるため、遺伝子発現と染色体挙動から、雄卵発生に伴う雌ゲノム消失や、単為生殖による新女王卵の形成に関わる遺伝子とその発生機構の解明を目指す。 まず遺伝子発現解析においては、繁殖シーズン(5、6月)とそれ以外の季節の女王個体の頭部および腹部からそれぞれ1個体単位でRNAを抽出し、RNA-seqによって発現遺伝子を比較する。サンプリングに先立ってこれらの女王個体が繁殖虫を産んでいるかワーカーを産んでいるかを記録し遺伝子発現結果と比較することで、季節応答遺伝子、繁殖戦略決定遺伝子、新女王・雄卵形成遺伝子といった特殊な繁殖の進行に寄与する遺伝子を選抜する。2022年の研究より、女王1匹の頭部や腹部からは、そのままではRNA-seqに用いるほどのRNAは得られないものの、市販の増幅キットを使用することで対応可能であることを確認している。 雄卵形成時の染色体挙動の観察においては、2022年度に確立したマイクロインジェクション技術を用いる。繁殖シーズン(5、6月)およびそれ以外の季節に産まれた卵に、産卵直後に高感度核酸染色試薬および蛍光標識チューブリンを導入することで染色体や分裂装置を可視化し、雄が産まれる際にどのタイミングでどのようにして母由来のゲノムが捨てられるかを明らかにする。また観察された挙動から染色体運動に関わるどのような分子がその機能を担うかについて考察する。 以上の実験で得られた個体レベルの詳細な遺伝子発現プロファイルと細胞レベルの観察結果を統合し、本種の特殊な繁殖システムの制御機構についてのモデルを構築する。
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