研究課題/領域番号 |
22K19386
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分47:薬学およびその関連分野
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
渡邊 真弥 自治医科大学, 医学部, 准教授 (60614956)
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研究分担者 |
崔 龍洙 自治医科大学, 医学部, 教授 (50306932)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2023年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2022年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
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キーワード | 細胞内寄生細菌 / ファージ / ファージ療法 / 抗酸菌 / ファージライブラリー |
研究開始時の研究の概要 |
抗菌薬の効かない薬剤耐性菌は、世界中で医療上重大な問題になっているにも関わらず、低分子化合物による新規抗菌薬の開発が滞っている。この深刻な耐性菌問題を解決するためには、低分子化合物に頼らない新しいモダリティを基盤とした抗菌薬の開発が必須である。細菌のウイルスであるファージを用いたファージ療法は、100年以上の歴史があり一部の細菌感染症に対して良好な治療効果が示されているが、全ての感染症に応用することは困難である。そこで、本研究ではファージの移行性が低い細胞内に潜伏している細菌を殺菌する新しいファージ製剤を開発するための基盤研究を行う。
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研究実績の概要 |
薬剤耐性菌は世界中に蔓延しており、医療現場や社会全般に深刻な脅威となっている。薬剤耐性菌感染症は、効果的な治療法が限られているため、通常の感染症に比べて重症化しやすく、死亡率が高くなる傾向にある。しかし、細菌が薬剤耐性を獲得するスピードと比較して、薬剤耐性菌に著効する新しい抗菌薬の開発が遅れていることが、薬剤耐性菌問題を深刻化させている。このような状況の中、ファージ療法が再着目されている。細菌に感染するウイルスであるバクテリオファージ(ファージ)を用いたファージ療法は、歴史的には東欧で開発が進められ、現在では世界各国で臨床使用に向けた臨床治験が行われている。ファージは、殺菌メカニズムが従来の抗菌薬とは異なるため、多くの薬剤耐性菌に対しても作用することがin vitroの試験で明らかとなっている。従って、ファージ療法は、薬剤耐性菌感染症に対して有効な治療法になると考えられる。しかし、低分子薬と比較して、ファージの粒子サイズは大きく、病巣組織への浸透性は不透明である。特に、細胞内に潜伏感染する細菌に対しては、その効果が限定的であると考えられる。そこで本研究では、ファージの宿主細胞内への移行性を向上させることにより、細胞内に潜伏する細菌を効率的に殺菌できる新しいファージ製剤を開発するための基盤研究を行う。本研究を遂行することにより、ファージ療法の適用疾患を拡大させ、治療薬が届き難い細胞内寄生細菌に対する新規治療法の確立を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細菌がヒトに感染すると、多くの細菌はマクロファージなどの食細胞に捕食され殺菌されるが、一部の細菌は食細胞に貪食された後、マクロファージの殺菌機構から逃れ生存し増殖することが出来る。このような性質を持つ一群の細菌を細胞内寄生細菌と呼ぶ。さらに、多くの抗菌薬は細胞内への浸透性が悪いため、抗菌治療効果が乏しく、細胞内寄生細菌に対する抗菌治療は医療上の難題である。本研究では、細胞内寄生細菌のモデルとして抗酸菌を対象としている。抗酸菌は、結核やMycobacterium avium complex(MAC)を含む細菌である。これらの細菌は、一般的な抗菌薬に耐性を示すことが多いことに加えて、近年では薬剤耐性化が問題となっており、抗結核薬や抗非結核性抗酸菌薬の開発は世界中で推進すべき課題である。非結核性抗酸菌に対するファージ療法が近年行われ、一定の治療効果がみられているが、細胞内に潜伏する抗酸菌にファージが届き殺菌出来ているかは不明である。そこで細胞内寄生抗酸菌に対するファージ製剤を開発するための基盤を確立するために、初年度に以下の研究を実施した。まず、抗酸菌に広く感染するファージを複数入手した。これらのファージの感染域を種々の抗酸菌を用いて評価した。次に、遺伝子組換えが効率的に行えるM. smegmatisにファージDNAと数100 bpの短い組換えDNAを導入することにより、ファージの一部の遺伝子を組み替えることに成功した。また、抗酸菌を感染させたTHP-1細胞を用いた培養細胞による評価系を構築した。本研究は、現在のところ、研究計画通りに着実に進行している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、ファージにヒトの細胞内移行性を付与することで、ファージがヒト細胞内に高効率に送達され、細胞内寄生細菌を有効に殺菌するファージ製剤を開発するための基盤研究である。初年度では、本研究を実施するのに必要なファージを含む研究材料、ファージの遺伝子改変技術、培養細胞用いた評価系を構築した。次年度は、初年度に構築した抗酸菌ファージの遺伝子組換え技術を用いて、抗酸菌ファージの遺伝子に細胞内移行性を付与する機能を持たせることにより、抗酸菌が潜伏するマクロファージ内へ効率良く到達する細胞内侵入性が向上した抗酸菌ファージを合成する。さらに、合成した細胞内侵入性抗酸菌ファージを、初年度に確立したTHP-1細胞を用いた細胞培養系で評価する。本研究で対象としている抗酸菌は、増殖速度が遅いため実験結果が得られるまでに時間がかかる。そのため、上記の実験を並行で行うことで、研究を推進させる。本研究を遂行することで、今まで治療が難航していた細胞内寄生細菌による難治性感染症の治療法を確立することで、ファージ療法の対象疾患を拡大させ、薬剤耐性菌問題の解決に貢献する。
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