研究課題/領域番号 |
22K19410
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分48:生体の構造と機能およびその関連分野
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
船戸 弘正 東邦大学, 医学部, 教授 (90363118)
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研究分担者 |
成清 公弥 東邦大学, 医学部, 助教 (70599836)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2024年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2023年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2022年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
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キーワード | 睡眠 / 徐波 / 細胞内シグナル / イメージング |
研究開始時の研究の概要 |
近年、脊椎動物だけではなく、ショウジョウバエなどの無脊椎動物、さらにクラゲやヒドラと言った単純な神経系を持つ動物にも「睡眠」が存在することが明らかになった。このことは睡眠という現象の普遍性と同時に、睡眠現象を非常に少数のニューロンに還元できる可能性を示している。本研究では睡眠制御の細胞内シグナル系を、マウス脳において1細胞レベルで操作することによって、睡眠現象の1細胞レベルの可視化と操作を行い細胞レベルの活動やシナプス強度変化の分子基盤を明らかにする。
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研究実績の概要 |
睡眠は脊椎動物に見られるありふれた行動であるが、睡眠の定義の広がりと検出方法の高度化によりショウジョウバエ、クラゲ、ヒドラも「眠る」ことが明らかとなってきた。脳を持たない動物も眠ることから、シンプルな神経系でも「眠る」ことができる。本研究ではマウスをモデル動物として用いて、睡眠覚醒を司る中枢神経系における細胞レベルでの睡眠の基盤解明を目指している。前年度に引き続き、多点での脳波測定と広域または局所でのカルシウムイメージングを行った。ストレス、床敷、温度によって睡眠覚醒や脳波特性が異なるため、レム睡眠が見られ、ノンレム睡眠中に徐波成分以外が少なくなる条件を探った。マウス睡眠覚醒の個体差やアデノ随伴ウイルス投与後の感染効率の個体差による影響を減らすために、同一個体で遺伝子操作前後にまたがった効果を評価できるような実験系を立ち上げることができた。リードアウトは睡眠の質の使用である皮質脳波およびカルシウムイメージングであるが、分子レベルの操作は大脳皮質だけではなく脳深部構造にもアプローチし、それぞれ異なる効果があることを明らかにした。神経回路における多層性の意義を示している。ニューロン種ごとに細胞内シグナル稼働環境が異なることと、脳波発生への寄与度の違いによる考えられる。リン酸化酵素SIK3の機能獲得型変異をアデノ随伴ウイルスを用いて脳に投与しているが、並行してSIK3発現を抑制することの影響も検討を始めた。発現抑制は生理的な意義を反映するものの、多分子による代償がはたらくため変化は生じにくくなる傾向を認めている。より効率的な方法を開発中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
基本的には研究計画に沿って、さらに進行に伴って生じる問題点に対応するとともに、申請には見込んでいなかった技術的進展を積極的に取り入れながら研究を進捗させている。アデノ随伴ウイルスは局所でも眼窩静脈からもアプローチできるPHP.eB型カプシドを用いていたが、肝臓への感染が無視できないことから、より脳およびニューロンへのトロピズムの高いB10型に切り替えている。AAV.B10を用いたSLP変異型SIK3の眼窩静脈投与によっても、多点皮質脳波で徐波成分が増大することを確認した。またノンレム睡眠時間の延長も見られた。アデノ随伴ウイルスを用いて機能獲得変異型リン酸化酵素SIK3を発現するマウスに対して、リン酸化を受けないようにアミノ酸置換した基質分子を脳に広く発現させると、変異型SIK3発現による脳波徐波成分増大が減弱することも確認した。眼窩静脈投与はシンプルな手法であるが蛍光タンパク質での感染ニューロン評価では必ずしも期待通りの広がりを示すわけではないことが明らかになっている。アデノ随伴ウイルスを用いている共同研究者との情報のやり取りによって、固定装置を用いて一定の位置や角度を保持することが重要であることが明らかになった。公表された手法ではないことから、手法論文として公表する準備を進めている。計画通りにマウスを頭部固定装置に固定した状態でイメージングや多点脳波記録を行っているDREADDやFosプロモーターを利用した細胞ラベリングを組み合わせたより操作的な実験も進めている。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に研究推進方策として記載したように、Tet-Offシステムを用いて同一個体の脳波を遺伝子発現操作前後にわたって記録できるようになった。Tet-OffシステムはAAV投与後継続的にタモキシフェンを投与し続け、ドキシサイクリン投与することでrtTAを介して遺伝子操作スイッチとなるシステムであるが、長期のドキシサイクリン投与の影響や、体内残存ドキシサイクリンの影響により投与中止から遺伝子発現が十分に高まるまでに1週間程度かかることなどが課題となっている。この点でTet-Onシステムは標的遺伝子を発現させる時だけドキシサイクリンを投与させれば良いためより簡便であり効果も判定しやすい。しかし従来のTet-Onシステムはリーキーでありドキシサイクリンを投与していない状態でも一定程度の遺伝子発現が生じてしまうという問題があった。最近、Tet-Onシステムを改良し、ドキシサイクリン投与時のみtTAを介した転写促進として機能する分子を発現させるだけではなく、ドキシサイクリン非投与時に積極的に転写を抑制する分子を共発現するシステムが開発された。今後は、このTet-Onシステムに移行することで研究を推進する。SLP変異型SIK3を発現させたりSIK3をノックダウンするコンストラクトを、TREの下流に配置しさらに蛍光蛋白質をつないだアデノ随伴ウイルスとテトラサイクリン応答性転写活性化因子rtTAを発現するアデノ随伴ウイルスを組み合わて投与する。
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