研究課題/領域番号 |
22K19418
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分49:病理病態学、感染・免疫学およびその関連分野
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
河部 剛史 東北大学, 医学系研究科, 准教授 (50834652)
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研究分担者 |
石井 直人 東北大学, 医学系研究科, 教授 (60291267)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2023年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2022年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
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キーワード | CD4 T細胞 / 感染免疫 / 自然免疫 / 自己免疫疾患 |
研究開始時の研究の概要 |
現在、感染症治療の主体は抗菌薬や抗ウイルス薬などにより担われているが、これらの薬剤はそれぞれ標的微生物が限定的であるため、新興・再興感染症への対応は困難であった。一方、免疫機能を人為的に賦活化する「宿主志向型治療」が提唱されているが、炎症惹起による副作用が問題となっている。申請者は最近、獲得免疫の中核を担うはずのCD4 T細胞中に、自然免疫的感染防御機能を有する新規「MP細胞」を同定した。そこで本研究ではMP細胞の特性や感染防御機能、炎症惹起能の全容を解明することにより、副作用を最小化しつつあらゆる病原体に幅広く対応し得る新規「免疫賦活化治療」を創出することを目標とする。
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研究実績の概要 |
CD4+ T細胞は獲得免疫において中心的な役割を果たすリンパ球である。すなわち病原体感染時、外来抗原特異的ナイーブT細胞は活性化してエフェクターひいてはメモリー細胞へと分化し、病原体を生体内から排除する。これに加え、申請者は最近、ナイーブ細胞の一部が自己抗原を認識することにより恒常的に「メモリー表現型細胞(MP細胞)」へと分化し、自然免疫的な様式で感染防御に寄与することを報告した(Sci Immunol 2017)。一方、MP細胞の持つ自己反応性から、同細胞が炎症原性を持つ可能性も類推される。これらの知見をもとに、本研究ではMP細胞の特性や感染防御機能・炎症惹起能を解明し、同細胞を人為的かつ適切に活性化させることにより病原体に幅広く対応する新たな感染症治療戦略「免疫賦活化治療」を創出することを目的とした。 本年度の研究の結果、自己抗原特異的MP細胞と外来抗原特異的メモリー細胞を鑑別する分子マーカーとしてCD127、Sca1、Bcl2が同定された(Front Immunol 2022)。すなわち、メモリー細胞がこれらの分子を高発現するのに対し、MP細胞では発現が相対的に低いことがマウスにおいて判明した。さらに、マウスMP細胞のうちCD127(hi) Sca1(hi)分画はIL-12/18/2に反応して活性化し自然免疫機能を発揮すること、その過剰活性化により腸炎を惹起しうることが明らかになった。一方、ヒトにおいても同様の知見が蓄積されつつある。 以上の結果を踏まえ、次年度はMP細胞の自然免疫機能や炎症原性の分子メカニズムの解析、ヒトMP細胞の同定・活性化機構の解析等を施行する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(i) MP細胞の質的特異性:従来、MP細胞を鑑別する分子マーカーは不明であり、このことが同細胞の生物学的特性の解析を困難にしていた。これに対して我々は本年度、MP細胞がCD127(lo-hi) Sca1(lo-hi) Bcl2(lo)であるのに対して外来抗原特異的メモリー細胞ではこれらの発現が高いこと、すなわちMP細胞の鑑別マーカーをマウスにおいて発見した。また、CD127ならびにBcl2はヒトにおいてもMP鑑別マーカーとして機能し得る可能性についても見出した。 (ii) MP細胞の分化・活性化機構:上記の解析から、MP細胞がCD127(hi) Sca1(lo), CD127(hi) Sca1(hi), CD127(lo) Sca1(hi), CD127(lo) Sca1(lo)の4分画(いずれもBcl2(lo))により構成されることが判明し、さらに、CD127(hi) Sca1(hi)分画がT-bet(hi) “MP1”分画に相当することが明らかになった。同分画はIL-12 receptor、IL-18 receptorを恒常的に発現し、これらのサイトカインに応答して自然免疫的に活性化することも判明した。また、ヒトにおいても同様の活性化機序が示唆された。 (iii) MP細胞の自己免疫活性:リンパ球減少状態下、上記のCD127(hi) Sca1(hi) MP細胞はIL-12依存的に過剰活性化し腸炎を惹起することがマウスにおいて明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
(i) MP細胞の質的特異性:MP細胞はメモリー細胞に比して恒常的に速い増殖・アポトーシスを呈することが知られており、本年度に得られた実験結果から、恒常性維持サイトカインIL-7によりもたらされる生存シグナルの強弱が両細胞群の基礎的性質を規定する可能性が示唆される。そこで次年度は、MP細胞の恒常性維持におけるIL-7 - Bcl2経路の役割を明らかにする。また、ヒトMP細胞の同定・解析についても研究を継続する。 (ii) MP細胞の分化・活性化機構:本年度の結果よりCD127/Sca1とMP1との関係が明らかになったため、次年度はMP2/17/regとの関連性について解析する。 (iii) MP細胞の自己免疫活性:本年度の研究の結果、MP細胞は腸炎のみならず肺炎、腎炎、肝炎などの全身炎症を惹起する潜在性を有する可能性が提起された。本知見に基き、次年度はMP細胞の持つ炎症原性を細胞・分子レベルで明らかにする。各種サイトカインの阻害が炎症を抑制するかどうかについても解析する。 (iv) MP細胞の自然免疫的感染防御機能:MP2/17の持つ自然免疫機能に関する解析を継続する。
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