研究課題/領域番号 |
22K19429
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分49:病理病態学、感染・免疫学およびその関連分野
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
篠原 隆司 京都大学, 医学研究科, 教授 (30322770)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2024年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2023年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2022年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
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キーワード | 精子幹細胞 / 免疫寛容 / 精子形成 / PD-L1 |
研究開始時の研究の概要 |
初期胚はMHCの異なるホストの子宮に移植しても拒絶されない。これまで精巣の免疫寛容は精巣の体細胞が原因であると考えられて来た。しかし申請者らのCldn11欠損マウスへの移植結果や培養精子幹細胞の移植結果は、生殖細胞に免疫抑制のメカニズムがある可能性を示唆する。もし本研究にて精巣の免疫寛容のメカニズムが解明され、精子幹細胞のアロ移植による子孫作成が可能となれば発生工学の手法として新たな可能性を切り拓くものとなると共に、精巣の免疫寛容メカニズムの解明に新たな展開をもたらすものである。
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研究実績の概要 |
古くより精巣には免疫抑制能があり、アロ移植に寛容であることが知られている。精巣の支持細胞であるセルトリ細胞の間に生じるタイトジャンクションは血液精巣関門として働き、生殖細胞を免疫細胞から保護すると考えられてきた。精細管の中で、精原細胞から分化した細胞は減数分裂の過程で血液精巣関門を越えて基底膜側から管腔側へ移動する。そのため半数体の細胞は体内のリンパ球の攻撃を免れるとされてきた。ところが最近申請者らのグループは、この従来の見解では説明できない現象に遭遇した。血液精巣関門の構成遺伝子Cldn11の欠損マウスでは、精子形成が精母細胞の段階で停止し先天的に不妊症である。しかし申請者らがCldn11欠損マウスに野生型もしくは自身の精巣細胞(自家移植)を移植すると、基底膜側に生着した精原細胞は分化し再び管腔側に移動して最終段階まで精子形成を行った。リンパ球浸潤は無く拒絶の兆候は認められなかった。これらの結果は血液精巣関門が精巣の免疫寛容に影響を持たないことを示唆する。一方、最近申請者らは生殖細胞の側に免疫寛容を促す機能があることを示す実験データを得た。精巣から樹立した精子幹細胞の培養株であるGermline Stem (GS)細胞を移植すると、拒絶されず長期に精子形成が継続することを見出した。現在の段階ではGS細胞による免疫寛容がどのようなメカニズムで起こっているのかは明らかではないが、この結果は生殖細胞の方に免疫制御の能力があることを示唆する。また、純系動物がいない家畜の遺伝子改変個体作成やアロ移植による不妊症治療の可能性をも示唆するものである。そこで本研究においては、1)生殖細胞が免疫寛容を促す能力の分子機構を調べると共に、2) GS細胞を用いたアロ移植による子孫作成を目指して研究を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定した通りにアロ個体から樹立したGS細胞の移植により、免疫抑制を行うことなくドナー細胞からの子孫を自然交配により作出することに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
アロ個体由来のGS細胞が精子形成を起こすのには特に大きな問題がなかった。しかしながら、生まれてきた個体がどの程度正常な機能を有するのかについてはまだ検討できていない。外見上は健康に見えるものの、長期にわたる健康への影響や妊孕性がどの程度正常であるかを調べる必要がある。これらのF1産子の解析に加えて、子孫において異常があるかどうかについても検討する必要がある。本年度はこの実験のために、以下の実験を予定している。以下の機能を測定する。 1)血中の生化学マーカーとホルモン解析 クローン動物ではLDHと血中アンモニア濃度が亢進する。さらに肥満と高インスリン血症を呈する。そこでいくつかの生化学マーカー(ALB,TP, BUN, LDHなど)を継時的に解析する。またテストステロンとエストロゲンは配偶子形成や個体の健康状態に影響するため、性ホルモンとFSH/LH の濃度を測定する。 2) 体重 クローン動物では肥満が見られるため、体重の変動を記録する。 3)免疫機能評価 クローン動物では加齢と共に抗体産生能低下、マクロファージの細胞貪食能の低下などの免疫反応の異常が報告されているため、以下の項目について調べる。(i)Senescence-associated (SA) T細胞(老化関連T細胞)の解析; 脾臓や腸管リンパ節を回収し、PD-1+CD44highCD4+ T cells, CD153+ SA-T cells, 濾胞性ヘルパーT 細胞(Tfh細胞), 制御性T細胞の頻度をフローサイトメトリーにより測定する。 (ii) 抗体産生能の評価; SA-T細胞とTfh細胞は老化個体においてB細胞を刺激し胚中心を誘導し免疫グロブリンのクラススイッチを引き起こすことから、胚中心B細胞の異常やクラススイッチを起こした細胞の頻度を測定する。(iii) 自然免疫の解析; 個体老化と共に自然免疫能が低下するため、脾臓やリンパ節内の樹状細胞やマクロファージが産生する炎症性サイトカインを測定する。
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