研究課題/領域番号 |
22K19433
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分49:病理病態学、感染・免疫学およびその関連分野
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
森井 英一 大阪大学, 大学院医学系研究科, 教授 (10283772)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2024年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2023年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2022年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
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キーワード | 脂肪細胞 / 慢性炎症 / 脂肪組織 / RNA-seq / 遺伝子単離 / 病理組織 |
研究開始時の研究の概要 |
クローン病組織検体を用いて、漿膜下脂肪組織よりRNAを抽出し遺伝子発現解析を複数症例にて行う。発現量に変動のある候補遺伝子がコードするタンパク質の発現を免疫組織化学的にて、またRNA発現をin situ hybridization法にて解析し、どの細胞で遺伝子発現変化があるか明らかにする。同じ組織切片中に存在する脂肪細胞の大きさにより発現が異なる因子が重要であることからも解析過程で脂肪細胞の大きさで変化する因子にも着目する。解析対象遺伝子を細胞株でノックダウンあるいは強制発現させ細胞動態に対する影響を調べ脂肪細胞のサイズと慢性炎症との関連性を解析する。
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研究実績の概要 |
クローン病は再発しやすい炎症性腸疾患であるが、2年以内の早期に再発する症例がある一方、2年を経過しても再発しない症例があることが知られている。我々はこれまで再発症例と無再発症例の組織像を人工知能に読み込ませて、再発症例と無再発症例を判別するプログラムを開発している。この時、人工知能が着目している領域を解析したところ、多くの病理診断医が炎症の程度を判定する時に着目する粘膜面ではなく、筋層および漿膜外にひろがる脂肪組織に着目していることがわかった。そこで脂肪組織を詳細に検討したところ、再発症例では無再発症例と比較して脂肪細胞の大きさが小さいこと、すなわちadipose shrinkageが起こっていることが判明した。なぜ再発症例では脂肪細胞の大きさが小さいのかを調べることを目的に本研究を進めている。もっとも解析を進めやすい方法は、ヒトクローン病摘出病理検体の脂肪組織該当領域よりマクロダイセクションによりRNAを抽出し、網羅的な遺伝子発現検索を行うことで、再発症例、無再発症例に特異的な遺伝子を調べることである。ただし、病理検体の脂肪組織中には脂肪細胞以外にも炎症細胞、結合組織、血管など多くの種類の細胞が含まれる。このため、抽出したRNAには脂肪細胞由来のもの以外にも他の細胞種由来のものも含まれることとなる。そのため、単純な網羅的な遺伝子発現変化だけではなく、得られた発現変動を示す遺伝子がどの細胞で変動しているのか、さらにRNAから翻訳されたタンパク質がどのように変化しているのかまで調べる必要がある。そこで、網羅的な発現解析に加えて、免疫組織化学的な検討も加えることで、再発症例におけるadipose shrinkageに寄与する因子の解析を行う。進捗状況に記載のとおり、現在免疫組織化学的な解析も含めて検討を進めているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
クローン病の手術検体のうち、再発症例9例、無再発症例9例の脂肪組織よりRNAを抽出し、発現量で差を示す遺伝子について網羅的に解析した。1.5倍以上の差を示す遺伝子をiDEP96にて解析したところ、再発症例で発現低下を示す遺伝子を86種類、発現上昇を示す遺伝子を59個同定した。再発症例で発現上昇を示すpathwayを解析したところ、明らかな特定のpathwayは存在しなかった。これに対し、再発症例で発現低下を示すpathwayとして、blood coagulationの制御pathway、hemostasisの制御pathway、lipoprotein partivle mediated signaling pathway、low-density lipoprotein particle mediated signaling pathway、cellular response to exogenous dsRNA pathwayがトップ5として検出された。無再発症例ではこれらのpathwayが働いているが、再発症例ではこれらのpathwayが欠如している可能性が示唆された。遺伝子発現の網羅的解析は脂肪組織該当領域よりマクロダイセクションにより抽出されたRNAで行われているが、病理検体の脂肪組織中には脂肪細胞以外にも炎症細胞、結合組織、血管など多くの種類の細胞が含まれる。このため、抽出したRNAには脂肪細胞由来のもの以外にも他の細胞種由来のものも含まれることとなり、発現変化を示す遺伝子がコードするタンパク質が本当に脂肪細胞由来のものか検討する必要がある。そのため、該当候補タンパク質の発現様式を免疫組織化学的に解析している。現在、再発症例で発現増強を示したCD53などのタンパク質の発現を解析しているところである。また、これとは別に脂肪細胞のエネルギー代謝に関連するミトコンドリア関連タンパク質についての免疫組織化学的解析も進めている。
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今後の研究の推進方策 |
再発症例、無再発症例で発現に差のある遺伝子がコードするタンパク質について、該当タンパク質に対する抗体を利用した免疫組織化学的解析を進め発現に本当に差があるのかを検討する。またミトコンドリア機能関連タンパク質についても解析を進める。現在、ミトコンドリア機能を亢進させるタンパク質の発現が再発症例で高い傾向にあることを免疫組織化学的解析によりつかんでいる。このことから、エネルギー代謝の亢進に伴い脂肪細胞における脂肪蓄積量が減少し、そのためadipose shrinkageが起こる可能性を考えている。この点についてもさらに解析を進め、臨床検体のみならず細胞株を用いて同様の傾向がみられるのか解析する予定である。さらに臨床検体における免疫組織化学的解析により発現に差があることがわかったタンパク質については、その発現を細胞株で調整して脂肪細胞の大きさに影響があるかを調べる予定である。
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