研究課題
挑戦的研究(萌芽)
エストロゲン受容体(ER)陽性乳がんは、内分泌療法治療中に高い頻度で再発するという深刻な問題がある。これは、がんが治療環境を生き抜く際に発揮する適応力に由来するものと推察されるが、詳細は不明である。再発ER陽性乳がんの細胞核内では、タンパク質に翻訳されないノンコーディングRNA群が構造体を形成し、遺伝子がRNAへと転写されやすい “場”となり、がんの増殖遺伝子の発現を介して治療抵抗性の獲得に寄与すると考えられる。本研究では、RNAクラウドの実態を明らかにし、再発乳がんの病態の分子基盤を解明する。
エストロゲン受容体(ER)陽性乳がんは、術後の長期内分泌療法治療中に高い頻度で再発するという深刻な問題がある。これは、がんが治療環境に耐えて生き抜く際に発揮する適応力に由来するものと推察されるが、詳細は不明である。ER陽性乳がんの再発過程では、ERをコードするESR1遺伝子の転写が活性化されるが、その様式はきわめて独特である。ESR1を含む0.7 Mbのゲノム領域から一群のノンコーデイングRNAエレノアが転写されて細胞核内でRNA構造体であるクラウドを形成し、ESR1遺伝子とその近傍にある乳がん関連の3遺伝子の転写を活性化し、再発に寄与する。これは、4遺伝子を含む巨大クロマチンドメインから一斉に異常(クリプティック)な転写がおきて、それに伴って近傍のmRNAの転写が誘導されることが原因と考えられる。このクリプティックな転写により形成されるRNAクラウドは、近傍の遺伝子が転写されやすい “場”を形成するものと考えられるが詳細は不明である。本研究では、このクリプティックな群発的な転写の本態を解明することを目的とする。本年度は、群発的転写の本体が、RNA ポリメラーゼIIが高密度に局在する「Pol II convoy」と呼ばれる現象を反映している可能性がわかるなどの進展があった。
2: おおむね順調に進展している
本年度は下記の研究を行った。(1)再発乳がんにおける群発的クリプティック転写の実態を解明する: クリプティックな転写を伴ってカノニカルなmRNAの転写活性を示すESR1遺伝子座について、CAGE-Seqの結果を注意深く解析した。その結果、これらの遺伝子内で異所的な転写開始が起きている可能性は低いことがわかった。一方で、ESR1遺伝子座近傍のエンハンサー領域より多様な転写開始点が見出された。さらに、ESR1遺伝子座で検出されるRNAクラウドの実態は、イントロンRNAの遺伝子座との長期相互作用、あるいは高密度なRNAポリメラーゼIIの局在によるもの、といった新しい仮説が生まれた。CRISPR-dCas13の変法を用いてエレノアRNAの近傍にあるタンパク質にビオチン修飾が導入される方法を推進した。CRISPRとガイドRNA導入を最適化するために、レンチウイルスにより安定的にCRISPRを発現するMCF7細胞株の樹立を行った。(2)クリプティック転写に関わる因子の同定する:再発乳がんモデルLTED細胞を用いたゲノムワイドなCAGE-SeqとRNA-Seqの組み合わせ解析により、RNAポリメラーゼIIが高い密度を持って転写が行われる遺伝子座候補を複数抽出した。(3)再発乳がんにおけるクリプティック転写とRNAクラウドの機能を解明する:ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤を用いた実験より、クリプティック転写の実態は、高密度なRNAポリメラーゼIIの局在で「RNA Pol II convoy」と呼ばれる現象である可能性が示唆された。
下記の3点について解析をすすめる。(1)再発乳がんにおける群発的クリプティック転写の実態解明:ESR1と同様にクリプティックな転写を伴ってカノニカルなmRNAの転写活性を示す他の遺伝子座についてCAGE-SeqロングリードRNA Seqのデータ解析を行う。また、RNAクラウドの形成について、FISH解析を行う。(2) クリプティック転写に関わる因子を同定する:再発乳がんモデルLTED細胞について、ゲノムワイドなCAGE-Seq、ロングリードRNA Seqデータを解析することにより、ESR1遺伝子座同様にクリプティックな転写を伴ってカノニカルなmRNAの転写活性を示す遺伝子群を網羅的に同定し、それらに共通する特徴を抽出する。(3) 再発乳がんにおけるクリプティック転写とRNAクラウドの機能を解明する:ESR1を発現しない乳がん/非乳がん細胞において、RNA PolIIconvoyまたはヒストン脱アセチル化が関連する因子とdCas9融合タンパク質を発現させることにより、ゲノムの特定部位に異所的にクリプティック転写を誘導することができるか検討する。「RNA Pol II convoy」のメカニズムについて、転写の開始、伸長のいずれに原因があるかなどを調べてゆく。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 3件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (33件) (うち国際学会 7件、 招待講演 22件) 図書 (3件) 備考 (2件) 産業財産権 (1件)
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