研究課題/領域番号 |
22K19655
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分58:社会医学、看護学およびその関連分野
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研究機関 | 東北医科薬科大学 |
研究代表者 |
黄 基旭 東北医科薬科大学, 薬学部, 教授 (00344680)
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研究分担者 |
山縣 涼太 東北医科薬科大学, 薬学部, 助教 (20963424)
秋山 雅博 慶應義塾大学, 薬学部(芝共立), 特任講師 (60754570)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2023年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
2022年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
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キーワード | カドミウム / 潰瘍性大腸炎 |
研究開始時の研究の概要 |
最近日本では、潰瘍性大腸炎の患者が急激に増加しているが、その病因などは不明のままである。一方で、我々はお米などを介してカドミウムを摂取している。カドミウムは消化管での吸収率が低く、ここで吸収されなかったカドミウムは糞便から排泄されるまで通常24~72時間を大腸(主に直腸)に溜まることになる。我々は最近、カドミウムを投与したマウスにおいて、直腸の粘膜の厚さが僅かに減少していることを偶然見出した。本研究では、潰瘍性大腸炎の増悪因子としてのカドミウムの関与とその分子機構の解明を試みる。本研究結果を総合することによって、潰瘍性大腸炎増悪機構の解明につながる新知見が得られるものと期待される。
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研究実績の概要 |
我々はこれまでに、毒性を示さない低濃度のカドミウムを投与したマウスにおいてS状結腸と直腸の粘膜が対照マウスに比べて薄くなっていることを見出しており、カドミウムが潰瘍性大腸炎の増悪に関与する可能性が示唆されている。そこでまず、カドミウムによる“直腸粘膜厚さの減少”に関わる因子の検索を行った結果、tmRT1(機能未知)を同定することに成功した。このtmRT1はマウスにおいて大腸(特にS状結腸と直腸)のみに発現している機能未知因子であるが、本因子の欠損マウスではS状結腸と直腸の粘膜が薄くなっていることが観察された。また、直腸環状組織の粘膜を構成する上皮細胞や腸腺細胞においてtmRT1が多く発現しており、本発現がカドミウムを投与したマウスにおいて減少傾向を示していた。大腸粘膜の上皮層は、様々な外来物質に対するバリアーとして機能しており、その機能を維持するために常に上皮の再生が行われている。しかし、tmRT1欠損マウスでは大腸上皮再生機構が破綻していることが免疫染色により明らかとなった。このように、tmRT1は大腸上皮再生機構の維持に深く関与しており、カドミウムはtmRT1の発現を減少させることで大腸上皮再生機構を抑制することが示唆された。さらに、ヒト由来大腸上皮細胞であるRCM-1細胞を細胞毒性を示さない濃度のカドミウムで処理するとtmRT1の発現が減少し、この減少には主にtmRT1 mRNA量の低下が関与することも明らかとなった。今後、大腸上皮再生機構におけるtmRT1の役割やそれに対するカドミウムの影響を検討することで、潰瘍性大腸炎の増悪因子としてのカドミウムの関与が明らかとなるものと期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、カドミウムによる“直腸粘膜厚さの減少”に関わる因子を検索したところ、tmRT1(機能未知)を同定することに成功した。マウス個体におけるtmRT1の発現を免疫染色により詳細に調べたところ、tmRT1は大腸(特にS状結腸と直腸)のみに発現していることが判明した。また、直腸環状組織の内側粘を構成する上皮細胞や腸腺細胞においてtmRT1の発現が認められ、この発現はカドミウム投与マウスにおいて減少傾向を示していた。さらに、tmRT1欠損マウスではS状結腸と直腸の粘膜が薄くなっていることが観察され、大腸上皮再生機構の指標であるKi67(細胞増殖)およびcleaved caspase-3(細胞脱落)の発現にも異常が認められた。これらのことから、tmRT1は大腸上皮再生機構に関与しており、カドミウムはtmRT1発現を減少させることで大腸上皮再生機構を抑制している可能性が示された。さらに、ヒト由来大腸上皮細胞であるRCM-1細胞を細胞毒性を示さない濃度のカドミウムで処理したところ、tmRT1のmRNA量および蛋白質量の減少が認められた。しかし、翻訳阻害剤の存在下においてカドミウムはtmRT1蛋白質の安定性を増加させたことから、カドミウムはtmRT1蛋白質の安定性の低下よりも、そのmRNA量の減少を介して蛋白質量を低下させていることが示唆された。今後、カドミウムによるtmRT1発現低下に関わる分子機構や、大腸上皮再生機構におけるtmRT1の役割を解明することで、潰瘍性大腸炎の増悪因子としてのカドミウムの関与が明らかとなるものと期待される。以上のように、本研究は当初の研究計画通り進んでおり、これまでの検討により今後本研究を推進していく上で貴重な知見を得ることができたことから、本研究は計画に従って「概ね順調に進展している」と判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
上述のように、カドミウムはtmRT1発現を減少させることで大腸上皮再生機構を抑制しており、潰瘍性大腸炎の増悪因子として作用する可能性が示唆されている。そこで、潰瘍性大腸炎の増悪因子としてのカドミウムの関与様式を解明するため、下記の検討を行う。
カドミウムによるtmRT1発現低下機構:tmRT1転写活性化に関わる転写因子は不明である。そこで、当該遺伝子のプロモーター領域に結合する可能性のある転写因子をデータベースから選定してその発現抑制がtmRT1発現に与える影響などを検討する。また、カドミウムによって活性化される転写因子群についても同様の検討を実施する。以上の検討により、tmRT1の転写活性化に関わる転写因子を特定するとともにカドミウムの影響についても詳細に検討する。 大腸上皮再生機構におけるtmRT1の役割:tmRT1は構造中に転写関連領域を有しており、そのほとんどが核内に存在していることを見出している。これらのことは、tmRT1が大腸上皮再生機構に関わる遺伝子の発現調節に関与している可能性を示唆している。そこで、野生型およびtmRT1欠損型のマウスから摘出した大腸組織を用いてマイクロアレイ解析(二色法)を実施することでtmRT1によって発現が制御される遺伝子を同定し、その発現調節様式について検討する。なお、マイクロアレイ解析は昨年度末に実施しており、その詳細について検討する。 潰瘍性大腸炎の増悪因子としてのカドミウムの関与:野生型およびtmRT1欠損型のマウスに低濃度のカドミウムおよびデキストラン硫酸ナトリウムを投与した後に、経時的に全大腸組織を摘出してHE染色及び免疫染色によって細胞死 (caspase-3)と細胞増殖(Ki67)の程度を調べることで潰瘍性大腸炎への影響を検討する。また、大腸中の糞便を解析することでカドミウムが腸内細菌叢に与える影響も検討する。
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