研究課題/領域番号 |
22K19675
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分58:社会医学、看護学およびその関連分野
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
園田 愛 宮崎大学, 医学部, 助教 (10762122)
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研究分担者 |
柿崎 英二 宮崎大学, 医学部, 准教授 (70284833)
新川 慶明 宮崎大学, 医学部, 助教 (40625836)
湯川 修弘 宮崎大学, 医学部, 教授 (30240154)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,240千円 (直接経費: 4,800千円、間接経費: 1,440千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
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キーワード | 法医学 / 死因究明 / 溺死の診断 / 壊機法 / 珪藻 / 珪藻検査 / 硝酸 |
研究開始時の研究の概要 |
1904年,肺組織からプランクトン(珪藻)を検出することで間接的に溺水を証明する方法が初めて報告された。さらに1950年代,肺だけでなくその他の大循環系諸臓器(腎臓・肝臓・骨髄)からも珪藻を検出することが,溺死の診断に重要であると提唱された。しかし1960年代に入るとこれに矛盾する研究結果も度々報告されるようになった。私たちは長年この課題に取り組んできて,最近この問題はフラスコに基づく偽陽性検出が主な要因ではないかと考え,その根拠を論文で発表した。そこで本課題では,偽陽性を生じにくい新しい手法を用いて,溺死体の諸臓器中の珪藻をより大きなスケールで再調査し珪藻検査の有用性を検討する。
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研究実績の概要 |
法医学では,溺死を診断するために水中の微生物を指標としたプランクトン(珪藻)検査が行われている。しかし諸臓器(肺,腎臓,肝臓,骨髄など)や血液(心臓血,大腿静脈血など)などの検査試料から検出される珪藻は,様々な論文を比較するとその数や頻度に大きな違いがみられる。私たちは,その主な原因としてフラスコに由来する偽陽性検出が関与していると考えた。そこで本研究では,可能な限り偽陽性検出を引き起こさない条件下で,未使用のフラスコのみを用いて新しい高感度検査法を実施した。これまでに水中および水辺で発見された解剖例の計80例の420検体(肺160検体,腎臓80検体,肝臓77検体,血液23検体,現場水80検体)を検証した。特に今年度は高度に腐敗が進行した事例に重点をおき,さらに22例を追加し偽陽性検出の問題や真の陽性検出の意義について調査・解析した。その結果,肺以外の諸臓器については,高度に腐敗が進行した事例を含めてほとんどの事例で,たとえ腎臓や肝臓,血液から少数の珪藻を認めても,その数は非常に少なく,偽陽性との判別は難しいことが示された。また当初私たちが予想した通り,フラスコの繰り返し利用は多数の偽陽性検出を引き起こす原因として特に注意すべきであることも改めて確認された。さらに腐乱死体において,解剖中の試料採取の際に,外表に付着した珪藻が手袋や解剖刀,切り出し板などを介して検査試料に混入する可能性が考えられた。しかしこれに関しては細心の注意を払えば殆どの事例で偽陽性検出を防げることが示唆された。一方,肺や現場水の珪藻検出については得られる情報が多く,多くの事例で診断の一助として非常に効果的であった。 しかし,水域によっては珪藻の数が極端に少ない水環境もあり,その場合は肺組織でも多数の珪藻を検出できないため,その他の水棲微生物を指標とした検査法を追加する必要があると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記のように,本研究成果から肺や現場水を検査して得られる情報は多く,多くの事例で溺死診断の一助として非常に効果的であることが強く示された。しかし一方で,腎臓や肝臓,血液の珪藻検査については,高度に腐敗した遺体の場合(高度に腐敗膨満,外表に広範に藻が叢生,腐敗により血液を全く認めない,部分的に白骨化,蚕食により気管等が損壊,胸腔や腹腔が開放性に損傷など)を含めて,多くの事例で検出される珪藻の数や種類は非常に少なく,溺水吸引を示唆する根拠として非常に厳しいことが示された。ただし,高度に腐敗した事例の中で,これまでに極端に多くの珪藻を認めた事例も2例だけ認めた。そのような事例で珪藻が検出される機序については,今後の課題として長期的なスパンで慎重にその解明に努めたい。このように本研究を実施し得られた成果によって,溺死診断において重要かつ新しい知見が得られ,今後法医実務での死因究明に役立つことから,本年度の進捗度は概ね達成できたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度までの研究は,概ね順調に遂行できており,多くの有益な成果も得られたことから,来年度も引き続き本課題の当初の目的を達成するために研究を推進していく。検証すべき事例について,偽陽性検出を引き起こさない条件下で珪藻検査を実施し,真の珪藻数やその種類の検証を続ける。また初年度以降に得られた結果の正当性についても,次年度の結果と合わせて,引き続き総合的に分析し検証を行う。特に,高度に腐敗が進行した事例や溺死でない事例,損傷の多い事例で死後の珪藻の混入が疑われるような事例について,引き続き事例を追加して調査を続け偽陽性検出の可能性ないし原因を調査する。そして偽陽性検出の予防の方法を明確に提示すると共に,真の陽性検出についても今後データを詳細に分析し考察を加えたい。また,偽陽性検出を生じる可能性のある検査器具や洗剤類,その他の製品等について確認し調査を広げたい。さらに珪藻検査を実施しても充分な数や種類の珪藻が検出されず,溺水吸引の判断が困難であるような事例については,その他の検査を追加して実施することで診断精度を高める方法も提案したい。
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