研究課題
挑戦的研究(萌芽)
自分の意志とは無関係に、手が震えたり、顎や舌が何かを食べているようにモグモグと動いたりすることがあり、これらを不随意運動という。本研究では、不随意運動のなかでチック症に焦点をあてる。研究代表者は、マウスピース装着がチック症状を改善するという臨床報告を行った。そこで、本研究では、チック症が大脳皮質-大脳基底核回路の機能異常に起因するという仮説のもと、マウスピース装着による筋紡錘感覚の変調が不随意運動を改善する脳内神経機構の解明に挑む。また、筋紡錘感覚を圧電デバイスにより人工操作することで、不随意運動の改善を引き起こす新規治療法の開発についても挑戦する。
随意運動の発現には大脳皮質-大脳基底核・小脳-脊髄・脳幹を結ぶ神経回路が関与し、その機能異常により不随意運動が生じることが明らかになりつつある。他方、四肢や顔面を収縮させる反復性動作を示すチック症患者においてマウスピースが症状を緩和させるということを近年報告した。本研究では、チック症が大脳基底核神経回路の異常に起因するという仮説のもと、マウスピース装着による咀嚼筋筋紡錘感覚の変調が不随意運動を改善する脳内メカニズムを明らかにし、また、人工末梢感覚神経操作により不随意運動の改善を導く新規治療法の開発を目指す。我々は、まず咀嚼筋筋紡錘感覚の中枢経路を明らかにした。咀嚼筋筋紡錘感覚は、咬筋神経を通り、三叉神経上核・視床VPMcvm核を経て、情動に関係する島皮質に入力することが明らかになった。一方で、チック症の病態に関しては、大脳皮質の活動を支える大脳基底核の線条体における神経伝達異常がチックの本態であるという仮説を立て、抑制性神経伝達物質であるGABAの拮抗薬を線条体に注入することで、マウスチックモデルを作製することが可能かどうかを検証した。健常マウスの線条体にGABA受容体拮抗薬を局所注入した結果、脳波ならびに筋電図から見て、てんかん症状とは異なるチック様症状を誘発することに成功した。また、チック症モデルマウスの全脳において、c-Fosタンパクの免疫染色を行うことで、症状発現時の活性化脳部位を検討した結果、一次運動野に加えて、扁桃体、帯状皮質、島皮質、梨状皮質といった情動機能に関与する辺縁系脳領域の活性化を観察することができた。さらに、ウイルスを用いた解剖実験を行うことで、線条体運動領域から淡蒼球・黒質網様部を経た後、視床髄板内核を経由して、辺縁系脳領域に至ることが明らかになった。これらの実験結果は、今後チック症患者の新規治療法を探る上で大きな手がかりとなる。
2: おおむね順調に進展している
1)筋紡錘感覚中枢経路の同定、2)チック症モデルマウスの開発、3)チック症発現時の脳活性化部位の検索、を中心に研究計画を遂行した。筋紡錘感覚中枢経路に関しては、筋紡錘感覚が、体性感覚の中枢である一次体性感覚野ではなく、情動に深く関与する島皮質に投射することを明らかにした。この結果は、チック症患者の機能画像研究で、島皮質の活動異常が見られることからも非常に興味深い。またマウス線条体への薬物注入により安定したチック症状を発現させることができ、このチック症モデルマウスにおいて、運動関連領域のみならず、島皮質・帯状皮質などの情動関連領域の活性化を検出することが出来た。
次年度は、化学遺伝学による島皮質の神経活動操作に加え、視床髄板内核から島皮質への入力の操作、また、筋紡錘感覚の中継核の神経活動操作によっても症状緩和を導くことができるかどうかについて検討を加えることが出来ればと考えている、また、中枢そのものを操作するのでは無く、将来のヒト患者への応用を念頭におき、筋紡錘感覚を圧電デバイスを使って人工的に操作することにも挑戦したいと考えている。
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