研究課題/領域番号 |
22K19815
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分61:人間情報学およびその関連分野
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
池本 周平 九州工業大学, 大学院生命体工学研究科, 准教授 (00588353)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 5,200千円 (直接経費: 4,000千円、間接経費: 1,200千円)
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キーワード | テンセグリティロボット / ソフトロボット / 冗長性 / 超冗長 / テンセグリティ |
研究開始時の研究の概要 |
やわらかい材料を利用することの欠点に囚われることなく,やわらかさが生む利点を追求することで,ソフトロボティクスは新しい研究領域となった.本研究では,このプロセスを「冗長さ」への着目から同様に辿る.本研究では,100以上の独立なアクチュエータを備えた柔軟マニピュレータを実際に開発し,冗長自由度が極端に多いことで可能になる冗長性の利用方法の提案を目指す.具体的には,マニピュレータの開発のため,関節自由度とアクチュエータ数を段階的に増やすことができるスケーラブルな設計方法を提案し,冗長性を利用する方法として,タスク空間に直交する空間に具体的な意味を当てはめていく手法を提案する.
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研究実績の概要 |
生物の身体はロボットよりもやわらかく,多くの関節自由度を持ち,さらに多くの筋肉で駆動される.つまり,ロボットと生物の間には,非常に大きな「柔軟性の差」と「冗長性の差」がある.このうち「柔軟性の差」については,ロボット全体を柔軟にするなどの挑戦が行われ,その利点のみを積極的に追及する分野「ソフトロボティクス」が生まれた.一方,「冗長性の差」については,関節やアクチュエータを可能な限り多くするなどの挑戦は行われていない.そこで本研究では,100以上の独立なアクチュエータを備えた柔軟マニピュレータを実際に開発し,冗長自由度が極端に多いことで可能になる冗長性の利用方法の提案を目指している.具体的には,マニピュレータの開発のため,関節自由度とアクチュエータ数を段階的に増やすことができるスケーラブルな設計方法を提案し,冗長性を利用する方法として,タスク空間に直交する空間に具体的な意味を当てはめていく. 2022年度は,関節自由度とアクチュエータ数を段階的に増やすことができるスケーラブルな設計方法としてテンセグリティの利用を考え,その有用性を検証した他,冗長性を利用する方法として変分オートエンコーダを利用した直交空間のモデル化に取り組んだ.前者は,ストラットを4本利用したクラス 1 テンセグリティを積み重ねていく設計方法であり,実際に5つのテンセグリティを積み重ねることで連続的な湾曲が行えるマニピュレータを開発した.このマニピュレータは40本の空気圧シリンダで駆動できていることから,この設計方法が柔軟性と冗長性を高める上で都合が良いことを確認できた.後者では,開発したテンセグリティマニピュレータを無作為な命令で動作させて得られたデータに基づき,命令から手先位置,手先位置から命令の順・逆モデルを構築する問題に取り組み,提案手法がゼロ空間をモデル化できることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
40本の空気圧シリンダで駆動されるテンセグリティを利用したマニピュレータについては,その設計方法,達成可能な運動性能について論文にまとめ,2022年に開催されたIEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots and Systems (IROS2022)において成果発表を行った.これにより,本研究計画の基礎的なアイデアの提案・検証については当初予定した成果が得られたといえる. データ駆動アプローチによりタスク空間に直交する空間をモデル化するため,変分オートエンコーダを基本とした手法を提案した.モデルを訓練するため,開発したテンセグリティマニピュレータを実際に無作為に動作させ,命令(40本の空気圧シリンダに対する圧力目標値)と対応する手先位置(タスク空間の3次元位置情報)のデータを集めた.データは約3秒で1点を収集でき,計約30時間分のデータを収集した.このデータに基づいて提案モデルを訓練し,命令から手先位置,手先位置から命令の順・逆モデルを構築したところ,ゼロ空間にする特徴空間においてテンセグリティマニピュレータの剛性に相当する物理的意味が獲得されることを確認できた.この成果については,IROS2023に2件の論文を投稿した.このことから,本研究計画で確立を目指す冗長空間のモデル化手法について重要な端緒が得られたといえる. 一方,テンセグリティマニピュレータにおいて,ケーブルの破断やシリンダ可動域や摩擦抵抗による可動域の制限など,対処すべきいくつかのハードウェア的な問題が見つかった.以上のことから,全体として「おおむね順調に進展している.」と判断する.
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今後の研究の推進方策 |
本年度は,前年度において明らかになったハードウェア的問題の解決に取り組み,その完了の後,アクチュエータ数を100にまで増加させる挑戦に取り掛かる.また,これらの技術開発に取り組みながら,変分オートエンコーダを元にしたゼロ空間のモデル化手法の改善にも取り組む. 前年度において明らかになったハードウェア的問題として,テンセグリティのストラットとケーブルを結合する箇所においてケーブルが破断する問題がある.開発したテンセグリティマニピュレータの運動性を高めるためには,テンセグリティの剛性を高める必要があるが,そうするとケーブルに大きな張力が掛かることになる.また,長時間動かすことでデータを集めることから,ストラットとケーブルの結合箇所は何度も異なる方向から引っ張られることになる.そのため,結合箇所に僅かな摺動部分しか存在しなくとも,それがケーブル破断に結び付く危険性は高い.そこで本年度は,ストラットとケーブルの結合部分の摺動部分を全て設計変更し,大きな張力で長時間動かしてもケーブルが破断しないよう改良することで,以降のデータ収集・運動学習を円滑に行えるようにする.同時に,シリンダ可動域や摩擦抵抗の管理の見直しを行い,可動域を改善することにも取り組む. また,マニピュレータの現在のサイズを保ちながら空気圧シリンダの数を増やすことは難しいため,アクチュエータ数を100にまで増加させるには,空気圧シリンダ以外のアクチュエータを利用することが望ましい.そのため,ウィンチによるケーブルの牽引について検討を開始する. モデル化手法については,構造の剛性だけでなく,手先位置を固定しながら異なる姿勢を生成するような冗長性の利用を目指して改善を繰り返す.
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