研究課題/領域番号 |
22K19870
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分64:環境保全対策およびその関連分野
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
三好 弘一 徳島大学, 放射線総合センター, 教授 (90229906)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
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キーワード | 膜蒸留 / トリチウム / ソーラーシミュレータ / 液体シンチレーションカウンター / 疎水性フィルター / 親水性フィルター / 吸着 / 光熱変換物質 / 太陽光 |
研究開始時の研究の概要 |
トリチウム水(HTO)の膜材料への吸着と膜蒸留による精留とを融合させた二重の効果でHTOをH2Oから効率的に分離する。膜材料として光熱変換物質を修飾した疎水性膜上にHTO含有水を展開し光照射することで、H2OとHTOの蒸気圧差が大きい室温付近で水を気化させてH2OとHTOを精留・分離することを検討する。光照射下で気化し膜透過したHTOの膜材料への吸着特性や吸着性向上を探る。また、光熱変換物質修飾の水素結合性の高い親水性のシリカや陽極酸化アルミナ膜を用いることで、HTOの吸着分離性能の向上を研究するとともに膜蒸留による精留性能の向上を検討する。
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研究実績の概要 |
原発処理水中のトリチウム水HTO分離を目的とし、HTOの膜材料への吸着と膜による精留法とを融合させHTOを分離する。課題1では、光照射下で気化し膜透過したHTOのβ線を精緻に分析し、HTOの膜材料への吸着特性や吸着性向上を探ることを目的とした。ソルベントブラック色素を塗布した疎水性フィルターの下部に種々の親水性または疎水性フィルターをセットしてフィルター下部に回収した水中HTO残存率について100 μLあたりのトリチウムの正味の計数率を液体シンチレーションカウンタで測定して検討した。その結果、疎水性フィルターとしてPhase separatorを 32枚重ねて使用しソーラーシミュレータ(HAL-320;本年度購入)の照度を約4000 W/m2とした場合、回収水330 μL中のHTOの残存率が28%まで減少した。照度が約6000 W/m2ではHTOの残存率は48%へと増加した。Phase separatorの構造は表面がシリコンコートされ疎水化されたろ紙のため水蒸気のみ通過する構造であり、実験終了後のフィルターの重量増加から、水蒸気が通過する際に温度低下によりろ紙部分に吸収されたフィルターもあった。22枚目から水分による重量変化はほとんどなくトリチウムの計数率のみ観測されたことからトリチウムが優先的にPhase separatorに吸着することが示された。親水性フィルターろ紙32枚では、フィルターの重量変化とトリチウムの計数率はほぼ同じ傾向を示し、22枚以降も水分吸収による重量の増加とトリチウムの計数率増加が見られた。一方、0.5mm厚シリコン板を使用した実験では、回収水は5 μLと減少したが、そのトリチウムの残存率は18%まで低下した。従って、単位時間あたりフィルターを通過する水蒸気量が少なければ、疎水性フィルターを用いた場合、HTOを効率良く分離できることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ソルベントブラック色素を塗布した疎水性フィルターの下部に種々の親水性または疎水性フィルターをセットしてフィルター下部に回収した水中HTO残存率について100 μLあたりのトリチウムの正味の計数率を液体シンチレーションカウンタで測定して検討した結果、疎水性フィルターとしてPhase separatorを 32枚重ねて使用しソーラーシミュレータ(HAL-320;本年度購入)の照度を約4000 W/m2とした場合、回収水330 μL中のHTOの残存率が28%まで減少した。 Phase separatorの構造は表面がシリコンコートされ疎水化されたろ紙のため水蒸気のみ通過する構造であり、実験終了後のフィルターの重量増加から、水蒸気が通過する際に温度低下によりろ紙部分に吸収されたフィルターもあった。22枚目から水分による重量変化はほとんどなくトリチウムの計数率のみ観測されたことからトリチウムが優先的にPhase separatorに吸着することが示された。 親水性フィルターろ紙32枚では、フィルターの重量変化とトリチウムの計数率はほぼ同じ傾向を示し、22枚以降も水分吸収による重量の増加とトリチウムの計数率増加が見られた。一方、0.5mm厚シリコン板を使用した実験では、回収水は5 μLと減少したが、そのトリチウムの残存率は18%まで低下した。 以上の結果から、単位時間あたりフィルターを通過する水蒸気量が少なければ、疎水性フィルターを用いた場合、HTOを効率良く分離できることを明らかにすることができたため。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度では、HTO含有水を疎水性フィルターに透過させることで、HTOを分離できることがわかった。そこで令和5年度では、光熱変換物質修飾の親水性フィルターおよび疎水性フィルターを効果的に組み合わせることで、HTOの膜蒸留による吸着分離性能の向上を(課題2)目的に研究を実施する。 具体的には、以下の項目について実験を計画し実施する。 1)令和4年度に得られた結果から照度を1000W/m2以下として単位時間あたりの水蒸気発生量を減少させ、Phase separator 22枚目以降で見られた水蒸気量と同じとした場合、照射時間を制御することでPhase separatorシリコンコートへのトリチウムの吸着量が増加することが予想される。膜厚の大きいシリコン板(30 μm, 100 μm, 0.5mm)では、回収水の回収量は減少するが、トリチウム残存率は減少した。このため、最適な照度と照射時間を決定し疎水性フィルターへの選択的なトリチウム吸着量を増加させるとともに最適なフィルターの組み合わせと厚み等を決定する。 2)光熱変換物質修飾の親水性フィルターおよび疎水性フィルターを効果的に組み合わせること、膜透過後の回収水中のトリチウム残存率及びフィルターへの親水性のシリカや陽極酸化アルミナ膜へのHTO吸着の有無を調べて、フィルター種や照度との関係を明らかにする。 3)光熱変換物質修飾の親水性フィルターおよび疎水性フィルターを効果的に組み合わせ、回収水中のトリチウム残存率の収支バランスを検討してフィルターによるトリチウム吸着分離機構を提案する。
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