研究課題/領域番号 |
22K19887
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分90:人間医工学およびその関連分野
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
船本 健一 東北大学, 流体科学研究所, 准教授 (70451630)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2024年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2023年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2022年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
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キーワード | マイクロ・ナノデバイス / 細胞・組織 / 生物・生体工学 / 自然免疫細胞 / 酸素応答 / 低酸素 / 好中球 / マクロファージ |
研究開始時の研究の概要 |
自然免疫細胞の酸素に対する応答は、酸素感知の条件やメカニズム、細胞サブセットによる違いを含め不明な点が多い。本研究では、酸素濃度制御が可能なマイクロ流体デバイスを用い、自然免疫細胞の周囲の酸素環境を時空間制御して、細胞形態・動態・機能を計測し、運動の数理モデルを構築して解析する。これらにより、自然免疫細胞の酸素応答特性とメカニズムを包括的に理解し、その運動を制御する方法を考案する。
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研究実績の概要 |
マイクロ流体デバイスを用いて、酸素濃度に応じた自然免疫細胞の形態と動態を観察する実験に取り組んだ。白血球のモデル細胞としてヒト全骨髄球性白血病細胞株(HL-60)を好中球様またはマクロファージ様に分化させて実験を行った。HL-60細胞は、RPMI-1640培養液に熱非働化済ウシ胎仔血清とペニシリン・ストレプトマイシン(P/S)を添加した培養液を用い、ディッシュ上で培養した。その後、P/Sを添加していない上述の培養液に対し、分化誘導試薬としてall-trans-レチノイン酸(ATRA)を添加して5日間培養することで好中球様に、ホルボールエステル(PMA)を添加して1晩培養することでマクロファージ様に分化させた。各分化後の細胞を回収してデバイス内の3本の分離したメディア流路に播種した後、メディア流路の直上に設置した2本のガス流路に酸素濃度を調整した混合ガス(21%または5%,0% O2)を供給することで、メディア流路内に一様な酸素濃度の状態や酸素濃度勾配(0-5% O2および0-21% O2)を生成し、細胞のタイムラプス観察を行った。その結果、いずれの細胞についても実験開始から1時間後には細胞の遊走が活発化し、遊走の速さが増加した。酸素濃度が極めて低い場合は、他の酸素濃度と比較して遊走の速さが減少する傾向が見られたが、酸素濃度勾配を生成した実験では勾配に沿うような特徴的な遊走(走気性)は見られなかった。マウスから採取した白血球を用いた実験においても、同様の傾向が観察された。一方で、マルチウェルプレート上に細胞の凝集塊を接着させた後にカバーガラスを被せ、細胞の酸素消費により低酸素環境を自己生成させて細胞観察を行ったスポットアッセイでは、数日後以降に、酸素濃度が比較的高い領域に向かう走気性とみられる遊走が観察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
白血球のモデルとしてHL-60細胞を好中球様やマクロファージ様に分化させた細胞や、マウスから採取したマクロファージをマイクロ流体デバイス内のメディア流路に播種し、酸素濃度の制御下で細胞運動をタイムラプス観察する方法を確立した。しかし、デバイス内のHL-60細胞は、播種してから4時間以上が経過すると、底面のカバーガラスから剥がれて浮遊し、メディア流路内に発生したわずかな対流によって、下流側へと流れ去る問題が頻発した。そのため、現状として4時間以内の短時間内における細胞の遊走特性の評価を行うことはできているが、長期間にわたる遊走の観察と評価の実現には実験方法の改良が必要であり、その課題解決に取り組んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、マイクロ流体デバイスを用いて、酸素濃度の時空間変化に対する自然免疫細胞の形態および動態の変化の解析に取り組む。様々な酸素濃度レベルの一様な状態や、緩急の異なる酸素濃度勾配、一定時間毎に酸素濃度を変化させたり勾配の向きを逆転させたりしながらタイムラプス観察を行い、時系列の顕微鏡画像を解析することで遊走の距離、方向、持続性を計測する。ここで、長期間の細胞観察が困難な原因として細胞への栄養不足が考えられるため、メディア流路に微小な流量で培養液を供給しながら実験を行うことを検討する。本実験方法を確立することで、酸素濃度の変化に加え、細胞培養液の流量と成分の調整により、流れ負荷や炎症性の応答を促した実験が可能になる。また、細胞運動の観察に加えて、細胞内のタンパク質の発現・局在・活性および分泌物の解析を行う。低酸素誘導因子HIF-1αや細胞膜機能分子などの免疫蛍光染色による観察や、細胞培養液を回収して炎症性サイトカインの分泌量の経時的な解析を実施する。これらにより、自然免疫細胞の種類による酸素濃度感知と運動の変化のメカニズムの類似性と特異性を解明する。さらに、細胞実験結果に基づいて、自然免疫細胞の運動を記述する数理モデルの構築に取り組む。数理モデルには酸素濃度に応じて変化させる係数を付与し、まず実験結果を再現する。その後、構築した数理モデルを用いて細胞の運動のパラメータスタディを行い、酸素濃度に応じた運動の変化を評価する。数値解析において特徴的な結果が得られた条件については、対応する細胞実験を実際に行って検証する。これにより数理モデルの精度を高めるとともに、自然免疫細胞の動態の酸素濃度依存性を解明し、酸素濃度制御による運動操作方法について検討する。
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