研究課題/領域番号 |
22K19930
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分90:人間医工学およびその関連分野
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
寺川 貴樹 東北大学, サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター, 教授 (10250854)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2023年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2022年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
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キーワード | 粒子線治療 / 重陽子 / 放射線増感効果 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、重水素化合物薬剤を腫瘍に集積させた状態で重陽子線照射を行い、腫瘍細胞内でDD反応を誘発させて低副作用で高い治療効果を狙う治療法、すなわち、腫瘍内核融合反応誘発型重陽子線治療法の開発を目指す。DD反応を伴う重陽子線線量分布を計測するため、重水を用いたポリマーゲル線量計を開発する。また、腫瘍細胞に集積させる重水素化合物として重水素化グルコースを用いる。重水素化グルコースを添加し培養した腫瘍細胞に重陽子線を照射し、付与線量に対する細胞生存率を評価する。従来のX線照射や重陽子線単独照射等と比較し、本研究の治療法の優位性を評価・総括する。
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研究実績の概要 |
本研究は、腫瘍細胞に重水素化合物薬剤を集積させた状態で重陽子線照射を行い、腫瘍細胞内で重陽子と重陽子が融合する核反応(DD反応)を誘発させて,低副作用で高い治療効果を狙う新規の重陽子線治療法の開発を目指す.重陽子線照射単独では重陽子線のブラッグピークによる治療効果であるため,陽子線治療とほぼ同様の治療効果しか期待されない.しかし,本研究の提案手法では細胞内に予め送達した重陽子とブラッグピーク形成中の照射重陽子がDD反応を起こし,反応で二次的に発生した低エネルギー陽子,三重水素,ヘリウム3(ともに高LET線に相当する)がさらなるDNA損傷を引き起こす.DD反応の断面積は入射重陽子がブラッグピークを形成する低エネルギー領域で顕著に増大するため,正常組織への影響は小さく高い腫瘍効果を実現できると期待される. 令和4年度では、東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンターにおいて,治療効果を評価するための照射実験に必要となるDD反応線量シミュレーション,照射デバイスであるエネルギーフィルタ、DD反応線量計測可能なゲル線量計の開発を行った。シミュレーションではPHITSモンテカルロシミュレーションコードを用いて,DD反応による線量と線量平均された線エネルギー付与(LET)の増加効果について評価した.また、重陽子線用で拡大ブラッグピーク(SOBP)を形成するためのエネルギー変調フィルターを設計し,照射テストにおいて20mm以上の平坦な高線量域を持つSOBPなど数種類のSOBP線量分布が形成された.また,線量分布におけるDD反応の寄与を評価するため,放射線感受性ゲルを用いた線量計(ゲル線量計)と,3次元で連続的に線量分布を読出すことが可能な光CTシステムの開発を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で目指すDD反応をともなう重陽子線治療の効果を理論的見地から高精度に予測するために,最新の核反応データベースに基づいたモンテカルロシミュレーションをおこなった.腫瘍を想定する領域に重陽子が存在しない通常の重陽子線照射の場合にくらべて,本照射法では深部方向の線量分布と線量平均LET分布の双方においてDD反応による増加がSOBP領域で確認され,治療効果の増強が期待できる結果が得られている.また,重陽子線によるSOBPを形成するためのエネルギーフィルターは,前述のPHITSによる照射体系のモンテカルロシミュレーション結果をもとに3Dプリンターを用いて開発した.5mmから20mm幅(5mmステップ)のSOBPと,表面から飛程終端まで全てSOBPとなる全エネルギー変調フィルターも開発を行い,実験で必要となる様々な条件に対応できるような深部線量分布が得られている.一方、DD反応によるSOBP領域の線量増加分は、電離箱等の通常の線量計では線量計内部に重陽子が存在しないため計測できない。したがって、重水を用いた色素系ゲル線量計を開発した.X線照射による照射テストで照射領域が着色し,吸光度計による測定で線量依存的に吸光度が変化し線量計として基本的に機能することが確認された.また,照射したゲル線量計を光CT装置で読み取り,3次元線量分布が取得できることも確認された.以上より,本研究は概ね計画通り進捗していると判断される.
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今後の研究の推進方策 |
放射線の生物学的効果について線量やLET等の線質を指標として評価するためには,ゲル線量計の正確な特性評価が必要である.すなわち,ゲル線量計は化学反応を利用する線量計であるため,温度,線量率,LET,分割照射による線量可積算性,作成から照射までの時間等の各種依存性が存在する.したがって,令和5年度前半では,これらを評価し必要な補正の有無を明らかにするため,各種照射条件かにおける特性評価実験を実施する.さらに,必要な精度で線量分布が評価されているかどうかを確認するために,照射実験毎に線量校正等を行う必要があるが,ゲル線量計作成に使用する重水は非常に高価であるため,ゲルに記録された線量情報を消去し初期化できる再生可能なゲル線量計の開発も同時に進める.また,ゲル線量計物質は組織等価であるが水とは異なる.よって,ゲル物質中の深度を水中深度に換算し重陽子線の飛程を正確に得るために,陽子線CT等の手法による水等価厚測定も実施する.年度の後半では,治療効果について評価を行うために細胞レベルによる照射実験を行う.照射条件としては,粒子線治療で標準的な2Gy/minの線量率,0-10Gy程度までの吸収線量をSOBP領域で付与する.腫瘍細胞に対して重水素の存在の有無の条件で重陽子線を照射し,吸収線量に応じた細胞生存率を導出することで本研究の治療法の優位性を比較・評価し研究総括する.また,得られた成果は学会等で随時発表し,公表可能な成果から順次,国際学術誌に論文を発表する.
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