研究課題/領域番号 |
22K19950
|
研究種目 |
研究活動スタート支援
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0101:思想、芸術およびその関連分野
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
瀬戸 はるか 東北大学, 文学研究科, 助教 (60965515)
|
研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
|
キーワード | マニエリスム / アレッサンドロ・アッローリ / 解剖学 / 美術理論 / ブロンズィーノ / 身体描写 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、16世紀フィレンツェの画家アレッサンドロ・アッローリが解剖学的知識を盛り込んで執筆した絵画指南書『素描論』を手がかりに、この画家を含む世代の美術、いわゆるマニエリスムと呼ばれる美術における理論と実践の相関関係を明らかにする。 マニエリスム美術は、不自然な身体描写(身体各部の極端な引き延ばしや過度な捻りの身振り)が特徴的である一方で、同時代の美術理論では、解剖学を含めた自然科学に基づく再現的描写を重視する。こうした実践と理論の乖離現象について、それが生じた歴史的文脈を再構成し、真の意味で乖離と言えるのかを問い直し、この時代の美術における身体観を再解釈することを試みる。
|
研究実績の概要 |
2022年度は、アッローリの『素描論』の翻訳読解を進めるとともに、アッローリおよびその周辺の画家たちの作品と16世紀の美術理論書における人体描写に関する記述との関連性の検討を進めた。 テクストの翻訳については、全体の半分ほどの翻訳を終えた。冒頭の導入部分については、ローレンヅォ・マリヌッチ先生(東北大学准教授)に意見を聞きつつ、研究室紀要投稿に向けて準備を進めている。16世紀の文献調査については、G・ヴァザーリ『美術家列伝』(1568年版)に所収のポントルモ、ロッソ・フィオレンティーノ、ブロンズィーノ、アッローリの伝記における人体描写および解剖学的知識に関する記述を分析した。その上で、2023年3月には2週間のイタリア調査(ローマ、フィレンツェ、ピサ)を実施し、記述と実際の描写とを比較観察し、写真撮影を行った。フィレンツェ市内の美術館や教会、ピサのサント・ステーファノ騎士団教会での作品観察を通して、特にブロンズィーノ、アッローリの作品において、解剖学への強い関心を示すと解釈し得るいくつかの描写を見出すことができた。また、アッローリも参加したフィレンツェのサンタ・マリア・ノヴェッラ聖堂大回廊壁画(1580年代制作)の観察において、ベルナルディーノ・ポッチェッティやジョヴァンニ・マリア・ブッテリといったアッローリと同世代の画家の人体描写にブロンズィーノやアッローリとの顕著な関連性が認められたため、これらの画家についても調査する必要があると考えるに至った。 この他、フィレンツェのドイツ美術史研究所では、日本では入手やアクセスの難しい文献資料を精読・複写した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2022年度はアッローリ以前の作品における人体描写の関連性と解剖学的知識との関連性を検討するためにイタリアとアメリカでの実見調査を予定していたが、円安により、海外の書籍購入費および旅費が想定よりも高騰したため、調査対象となる作品が多いイタリアでの調査を優先し、当初予定していたアメリカでの調査は次年度に延期することとした。しかし、今回の海外調査では、2023年度に予定していたアッローリ作品の実見調査の内、フィレンツェ市内で所蔵されている主な作品については先んじて観察と写真撮影を行うことができた。研究資料の調査と分析については、海外調査の実施が諸般の理由から3月になったため、収集した資料は分析を進めている途上であり、この点で当初の計画より遅れが生じている。 テクストの翻訳については当初の予定通り、2023年度以降完成した部分から随時投稿予定であり、冒頭部分については、上述の通り推敲段階に入っている。
|
今後の研究の推進方策 |
2023年度は引き続き『素描論』の翻訳読解を進め、完成した部分については研究室紀要に投稿する。2022年度に実施したフィレンツェでの研究資料調査(上述)で得た資料を精読・分析し、『素描論』の歴史的位置づけを明らかにする。 アッローリのテクスト読解を踏まえ、作品と記述内容との相関関係を明らかにする。2023年度の作品調査はフィレンツェ、ローマ等イタリアで再度行うほか、ロサンゼルスやケンブリッジおよびロンドンにおいて、アッローリやその周辺の画家(ブロンズィーノ、ポントルモ、ロッソ・フィオレンティーノ)の作品を実見調査する。 加えて、2022年度の調査で新たに考察対象に加えるべきであると考えるに至った上述のフィレンツェ、サンタ・マリア・ノヴェッラ聖堂大回廊壁画に携わった二人の画家(B・ポッチェッティやG・M・ブッテリ)についての調査も進める。これらの画家に関する研究資料は日本では入手困難であるため、イタリアでの作品調査と合わせて、フィレンツェのドイツ美術史研究所で資料調査を行う。この二人の画家を検討の対象に加えることで、ブロンズィーノとアッローリとの間にのみ『素描論』の記述と作品との関連性を指摘できるのか、あるいはより広く16世紀終わり頃の他の画家の作品にも同様に指摘できるのかが明らかとなり、アッローリの『素描論』の記述と作品との相関関係を、16世紀フィレンツェ美術というより広い枠組みの中で相対化できると考える。
|