研究課題/領域番号 |
22K19981
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0101:思想、芸術およびその関連分野
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研究機関 | 独立行政法人国立美術館国立西洋美術館 |
研究代表者 |
袴田 紘代 独立行政法人国立美術館国立西洋美術館, 学芸課, 主任研究員 (40736477)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | ナビ派 / 芸術座 / 装飾 / 世紀末 / 演劇 / 象徴主義 / 美術史 / 19世紀美術 / 象徴主義演劇 |
研究開始時の研究の概要 |
装飾芸術の目覚ましい台頭と「装飾的」なるものをめぐる美術論が活性化した19世紀末フランスにおいて、「装飾的」なる概念は同時期に展開した象徴主義演劇理論においても引き合いに出されていた。本研究では、世紀末のパリで活動した画家グループ「ナビ派」と、象徴主義の劇団「芸術座」を核とする文芸サークルを考察対象の中心に据え、その文化環境における言説の分析などからこれら「装飾的」なる概念が意味するところを検討する。最終的に、同概念を介して当時の美術と演劇がいかに連動ないし相互作用していたのか、その実態と射程を明らかにすることで、近代フランス文化史への新たな視座の提供を目指す。
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研究実績の概要 |
本研究は、ナビ派と象徴主義の劇団「芸術座」を核とした文芸サークルにおける「装飾的」なる概念の考察を通じて、当時の美術と演劇の理念的交差を検証することを目的とする。当該年度は芸術座に関わった象徴主義作家と、モーリス・ドニ(1869-1940)を中心とするナビ派画家の一次資料の確認、作品調査を現地で進めるとともに、国内外での文献収集も継続した。 コロナ渦の影響により延期していた海外調査を、2023年10月にフランスおよびスイスにて実施した。美術、舞台芸術、文学を専門とする各図書館において日本で入手できなかった一次資料および二次文献を精査したことで、芸術座サークルの実態について新たな知見が得られた。また、モーリス・ドニのカタログ・レゾネ編纂室やドニ美術館研究センターでの調査および研究者との意見交換により、ドニが関わった芸術座での上演にまつわる史資料の存在を複数確認するに至った。 くわえて、現地で訪れたオルセー美術館常設展やエルミタージュ財団での「ヴュイヤールと日本」展、ナビ派の大収集家であるジョセフォヴィッツ・コレクションの競売プレヴュー(クリスティーズ・パリ)は、芸術座に参加していた1890年代初めのナビ派作品を多数実見できる貴重な機会となった。 ほかにも国立西洋美術館で企画・構成を担った展覧会「憧憬の地 ブルターニュ」(2023年3月18日-6月11日)には芸術座に参加したゴーガン、ポン=タヴェン派、ナビ派画家の作品が多く出品され、一連の展覧会業務を通して彼らの1890年代における関係性や芸術理念について知見を深めることができた。 研究成果の公表としては、本課題の成果にもとづく査読つき論文1本を発表した。また担当展覧会の関連講演会や、同展にまつわる大学や文化施設での招待講演・招待発表の場でもナビ派画家を取り上げることで、成果の幅広い社会還元に務めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は国内図書館や美術館での文献・作品調査に加え、2023年10月に実施したヨーロッパでの現地調査によって、未入手の一次資料・文献の確認および複写、未見作品の実見調査を遂行することが叶い、研究において重要となる同時代史資料の収集に進展があった。 昨年度までに進めた調査と、今年度の現地調査によって得られた成果の一部は、「象徴主義演劇論における「文様」と「装飾」: 19世紀末フランスの美術と演劇の交差をめぐる試論」と題する論文にまとめて『国立西洋美術館研究紀要』第28号(2023年、査読あり)に寄稿した。本論では象徴主義の演劇論として、「装飾」や「文様」の語を導きの糸に詩人ピエール・キヤール、戯曲家ピエール・ヴァラン、美術批評家アルフォンス・ジュルマンの言説をたどり、彼らの理念の美学的な共通性や相違点も含めて論じた。この研究成果は、当時の演劇理念とナビ派画家たちの芸術理念との交差について考察を進めていくための基盤として位置づけられる。以上の理由から、当該年度の進捗状況は「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策に関しては、当初の研究方法や計画から大幅な変更を加える予定はない。当該年度に実施した現地調査における収集資料・データの整理と分析を進めるほか、2024年度にもフランスで現地調査を行う予定である。実施の時期と期間に関しては、昨今の不安定な世界情勢を考慮に入れつつ、美術館業務や育児等の諸スケジュールも勘案しながら判断する。 研究成果の発表としては、これまでの調査で収集した史資料・画像の整理や分析を進め、論文として投稿することを目指す。また、本研究課題で取り上げられる内容は日本における認知度が低いため、美術館での活動にもその成果の一部を反映させ、広く社会に向けて発信するよう努める。
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