研究課題/領域番号 |
22K19982
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0101:思想、芸術およびその関連分野
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研究機関 | 和歌山県立博物館 |
研究代表者 |
島田 和 和歌山県立博物館, 学芸課, 学芸員 (20967327)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 130千円 (直接経費: 100千円、間接経費: 30千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
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キーワード | 仏教美術 / 空海 / 高僧 / 御影 / 八幡信仰 |
研究開始時の研究の概要 |
真言宗宗祖・弘法大師空海(774―835)の姿は密教の興隆とともに広く造形化されてきた。本研究では、空海が顕現した八幡神と互いに御影を写し合ったという伝承をもつ「互御影(たがいのみえい)」様(よう)の弘法大師画像に着目し、成立の過程や制作された文化圏の思想的背景を考察する。同図様の作例について、これまで鎌倉~室町時代の遺品が確認されてきたが、いずれも展観に供される機会が少なく、明瞭な画像や正確な所在情報を欠く。本研究は、作例調査により研究基盤を整えるとともに、新出資料を手がかりとして、中世真言宗における弘法大師御影の受容のありようと展開について解明を試みるものである。
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研究実績の概要 |
本研究の主たる課題である諸作例の把握にあたっては、従来の関連研究で言及されてこなかった遺品を新たに確認するとともに、「互御影」様弘法大師像の伝来の様相についても、通行の真如親王様や彫像の例にはみられない、特有の傾向を見出すことができた。 まず、遺例が少なく、所在地も九州から北関東まで広範に点在しているなかで、意外にも各所の伝承によって伝来経路を辿ることができる点は重要な特徴である。表具裏面の墨書銘、および地誌類に拠れば、画像の継承と併せ、当該模写の原本の存在や経緯が伝えられている場合が多い。その原本と現存作例との照合もほぼ可能で、各所への伝播においては、京都・神護寺伝来の作と、神奈川・鶴岡八幡宮伝来の作が二つの柱となったようである。また、江戸時代に京都・仁和寺等の造営を担った絵仏師の銘を有する作も確認され、特に仁和寺周辺の「互御影」様に対する視座が長く維持されたこともうかがえる。原本の存在や模写の行為に関心を払った伝来のありかたは、図像の普及以上に「互御影」様を写す行為そのものが重要視されていたことを示し、加えて限定的な普及については、年中行事の本尊といった急要・必要性を伴う制作とは異なる背景を想定すべきである。またこうした環境は、諸作例と原本との距離が比較的近接する可能性を示唆している。 もう一つには、弘法大師信仰における神仏習合との連関に基づく傾向が挙げられる。弘法大師が開いた高野山は無論要地とみなされるが、今回の研究では、山上・山麓ともに「互御影」様弘法大師像の作例がほぼ確認できなかった。これは当地の祭神として丹生・高野明神の方が大きな影響力をもったためと考えられる。すなわち、上述の模写行為の意義は祖師鑽仰の営為のみでは語り得ず、八幡信仰に関わる事績が制作および伝来の契機として推定されよう。 なお、今年度は本研究実績の集成に及ぶことができず、研究期間の延長を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
所属研究機関における職務が優先され、本研究の進行に遅延が生じた。具体的には、特別展開催準備により出張が困難であったため、作例の実査を進めることができなかった。特別展の主担当を初めて経験したため、両立に苦戦した影響が大きい。しかし、研究内容の見通しについては大幅な変更はなく、文献調査や実査の優先順位の調整をおこなうことで成果を出すことができているため、1年の延長により、研究の遂行が可能であると判断する。また研究着手時に文化財修理に入っていた作例が竣工を迎える等の情報を得たため、研究期間を延長することとした。
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今後の研究の推進方策 |
研究期間を延長しており、より厳密に進捗管理を行っていく必要がある。 初年度に調整を行った旅費の使用計画変更の段階で、諸作例の所在確認を行っており、実査訪問先の整理はついている状態にある。よって、まずは実査を早急に進め、成果の集成に遅延のないよう最大の注意を払う。また、実査にあたっては、寄託者や地域の文化財行政を担う部署等への事前相談を有効におこない、既存の情報収集等の協力を得て、本研究が広く活用されるよう努める。
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