研究課題/領域番号 |
22K19989
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0102:文学、言語学およびその関連分野
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研究機関 | 愛知教育大学 |
研究代表者 |
阿部 裕 愛知教育大学, 教育学部, 助教 (60965482)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 複合動詞 / 日本語史 |
研究開始時の研究の概要 |
2つの動詞が「動詞連用形+動詞」の形で合成した動詞(「思い悩む」「取り持つ」など)を「複合動詞」という。複合動詞が発達していることは日本語の特色とされるが、その歴史的な発達過程には未解明の部分が多い。複合動詞は古代語から非常に多く見られ、特に平安時代の文学作品には多用されている。古代語の複合動詞が現代語にも大きな影響を与えている可能性は高いが、古代語の複合動詞がどれだけ現代語に残っているのか、古代から現代にかけてどのように継承されてきたのかについて詳しいことは分かっていない。本研究は、各時代の文献資料の調査により、これらの点の解明を目指すものである。
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研究実績の概要 |
本研究は、古代語において爆発的に増加したと考えられる複合動詞が、どのように現代語に継承されているのかについて検討するものである。平安期の王朝古典作品には膨大な数の複合動詞が用いられている。また、現代日本語の動詞語彙においても複合動詞は重要な位置を占めている。両時代に共通する複合動詞を抽出し、その歴史的変遷を追うのがこの研究の目的である。 両時代に共通する複合動詞は膨大な数に上るため、研究対象をある程度絞らなければならない。そこで、研究の第一段階として両時代に共通する複合動詞の概要を把握し、研究対象とする複合動詞群を決定することとした。その際、本研究開始前に執筆を進めていた阿部裕(2023)『古代語複合動詞の現代語への継承について』(Nagoya Linguistics(名古屋言語研究)17号)を参照した。同論文は両時代に共通して見られる複合動詞について概観したもので、本研究の前段階として位置づけられるものである。 本研究で取り扱う複合動詞群を決定するために、いくつかの複合動詞の歴史的変遷について予備調査を行った。その結果、他動詞「取る」を構成要素とする複合動詞(「取り上げる」「引き取る」など)を研究対象とする方針を固めた。その主な理由は、「取る」を構成要素とする複合動詞は両時代に多く見られること、「取る」を前部要素とする複合動詞も後部要素とする複合動詞も見られること、両時代で意味用法がほぼ同じものと異なるものがいずれも見られること、という3点である。 現在は、「取る」を構成要素とする複合動詞の歴史的様相について、両時代における意味の拡大・縮小や意味変化が見られるものに特に注目しながら研究を進めている段階である。なお、本研究には国立国語研究所(2023)『日本語歴史コーパス』バージョン2023.3 https://clrd.ninjal.ac.jp/chj/を利用している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の研究計画においては、1年目に研究対象となる複合動詞群の決定と中世までの様相の分析、2年目に近世・近代の様相の分析とまとめと行うこととなっていた。また、様相の分析を行うに当たっては、対象複合動詞群を「A古代語と現代語で意味変化が見られないもの」「B意味の拡大・縮小が見られるもの」「C意味が変化したもの」の3パタンに分類することとしていた。この研究計画に大きな変更はないが、実際の研究の進捗においては当初の計画とやや相違する部分が生じた。当初の計画では時代ごと分けて複合動詞の様相を検討していくことにしていたが、実際に研究を進めるに当たっては、複合動詞ごとに中古から近代までの様相を検討する形で進めている。この方法を採る方が、各複合動詞の歴史的変遷を的確に描くことができると考えたためである。 1年目の研究計画の第一段階にあたる、研究対象となる複合動詞群の決定の際には予備調査を行う必要があり、それにやや時間を要したものの、最終的には「取る」を構成要素とする複合動詞という方針を固めることができた。第二段階にあたる中世までの様相の分析については、先に述べたように進め方に若干の変更が生じたため正確な評価は困難であるが、すでに対象複合動詞の調査・分析に着手していることから、特段の研究の遅れはないものといえる。 1年目は2年目の研究の素地を確立することが大きな目的であり、それは達成できている。一方、第二段階に進むのがやや遅れたことにより、想定よりも調査結果が蓄積できていない。以上より、「(3)やや遅れている」とした。
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今後の研究の推進方策 |
現在、本研究は「取る」を構成要素とする複合動詞の歴史的様相の検討に着手しているところであり、2年目はその研究を進めて完成させることが目標となる。 研究手法は、「取る」を含む個々の複合動詞の歴史(個別語史)の解明の積み重ねにより、全体的な結論をまとめるというものである。古代語と現代語に共通する複合動詞には、「A古代語と現代語で意味変化が見られないもの」「B意味の拡大・縮小が見られるもの」「C意味が変化したもの」の3パタンに大別できる。本研究では、このうち歴史的に何らかの意味用法の変化があるもの、すなわちB・Cに特に注目したい。B・Cの調査・研究においてまず注目したいのは、意味用法の変化がどの時代に起こったのかという点である。また、いつ変化したのかという問題だけでなく、なぜ変化したのかという意味変化の要因についても検討したい。先行論においては、中世室町期を境として複合動詞の内部構造が変化したことが指摘される(青木博史(2013)「複合動詞の歴史的変化」影山太郎編『複合動詞研究の最先端 謎の解明に向けて』ひつじ書房)。複合動詞の構造変化と意味変化に関連性が認められるかという点にも注目したい。かような歴史的様相の検討は文献上に用例が多く現れなければ難しいものであり、資料的制約によって十全には達成できない可能性もあるものの、各時代の用例の精査によって何らかの結論は下すことができると考える。 実際の研究手順は以下である。まず、先にも挙げた国立国語研究所『日本語歴史コーパス』や各種索引類を利用して「取る」を含む複合動詞の用例を収集し、校訂本文等を用いて意味用法の分析を行う。その後、その結果の分析・考察を行い、変化の時期、変化の要因などについて探る。この作業を個別の複合動詞ごとに蓄積していき、最終的にその成果をまとめる。
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