研究課題/領域番号 |
22K20001
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0102:文学、言語学およびその関連分野
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研究機関 | 武蔵野大学 |
研究代表者 |
大島 武宙 武蔵野大学, 文学部, 講師 (40964606)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 万葉集 / 挽歌 / 和歌 / 無常観 / 修辞 / 歌論 / 短歌 / 上代文学 / 長歌 |
研究開始時の研究の概要 |
上代日本文学における韻文の表現は、中国の漢詩文の表現を参考としながらも、独自の表現を志向したものと考えられる。『万葉集』所載の歌および『日本書紀』『古事記』に登場する歌、『懐風藻』の漢詩など上代日本文学における歌表現に見られる生死の表現を分析し、人間の生から死への移行や、親しい人々との死別がどのように表現されているかを明らかにする。またその表現のなかで、一首の長歌や一個の歌群がどのように構築されているのか、対句や句の切れ目に注目して明らかにする。特に『万葉集』の歌表現が必ずしも素朴、雄渾な作ではなく、高度な修辞が施されたものであることを具体的に示してゆく。
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研究実績の概要 |
『万葉集』の挽歌の表現分析や歌集内部の配列の意義について研究を進めた。論文「柿本人麻呂「泣血哀慟歌」第一歌群の展開」(近日発表予定)では、「泣血哀慟歌」第一歌群が、妻と死別した男の心情を述べるにあたり、修辞的な技術によって、あくまでも妻を求めつづける切迫した心情を実況的に表現することに成功していることを明らかにした。歌に用いられる「道」の語が、対象との親近性と隔絶とを、同時に含意する両義性を持つことに着目して、当該歌に対する新たな見方を提起したものである。研究発表「高市皇子尊「十市皇女挽歌」の表現」(2022年11月、上代文学会)では、十市皇女挽歌の解釈に関する通説を批判的に検討して、壬申の乱を暗示的に語る歌群であることを指摘し、その後の検討も含めて論文として発表予定である。江戸時代以来、近年に至るまで看過されてきた解釈上の問題を整理することで、『万葉集』を歴史書として読み解く方向性に新たな可能性を提起するものである。 大伴家持「悲世間無常歌」における、意識的かつ高度な同語反復の手法を「歌句の連携的用法」として指摘した研究発表(2021年10月)の内容を発展させ、その他の家持歌との関係を整理した論文を発表予定である。『万葉集』における「無常」の観念が、歌の表現とも深く結びついていたことを明らかにするとともに、家持歌には、特定の主題を表現するための道具として言葉を自在に活用する姿勢が見られることを明らかにする。 また、古典和歌と近現代の短歌との関係を考察した評論を雑誌「現代短歌」2023年3月号などに発表した。和歌の定型が保持されていることが、表現や発想にも影響していることを指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究発表や論文執筆、会合での意見交換や対話を進めながら、『万葉集』の挽歌を中心とする歌群の構成や、その背景となる死生観について、先行する議論を乗り越え、更新するような知見を獲得することができているように思われる。文学研究の特性上、事前の想定と現状を比較し、その進捗を数値化して把握することは困難だが、分析の対象とすることのできた作品の数は、想定を上回っている。 柿本人麻呂「泣血哀慟歌」第一歌群に関する研究は、先行する諸注釈の議論から問題点を整理し、細かく表現を検討することで一個の歌群としてどのような内容が展開されているかを明らかにするものであった。一方で、大伴家持「悲世間無常歌」に関する研究は、家持歌に認められる歌表現の修辞技術に注目し、これまで指摘されることのなかった手法の発見を述べるものである。以上のように、複数の異なる姿勢による研究を進められていることも、大きな成果ととらえている。 さらに、高市皇子尊「十市皇女挽歌」に関する研究は、『万葉集』の政治性、歴史性に注目する近年の諸研究にもつながるものであり、同様の手法によってさらに『万葉集』の多くの歌々について、その役割を明らかにすることができるのではないかと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
『万葉集』を中心とする古代日本の歌表現について、表現分析、解釈の検討を進めながら、生と死にまつわる発想の諸相を見てゆくことを今後の方針とする。そのなかで、今日の研究の通説の土台を提供したと思われる、近世期の国学における『万葉集』研究の内容も精査し、古代の人々にとっての歌の表現がどのようなものであったのかを明らかにすることを試みたい。具体的には、契沖『万葉代匠記』や本居宣長『古事記伝』などを精読することを通じて、解釈史・研究史の再検討を試みる予定である。
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