研究課題/領域番号 |
22K20013
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0102:文学、言語学およびその関連分野
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研究機関 | 北海学園大学 (2023) 北海道大学 (2022) |
研究代表者 |
清沢 紫織 北海学園大学, 人文学部, 講師 (80962810)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | ロシア語 / ベラルーシ語 / ウクライナ語 / 標準語 / 言語イデオロギー / 正書法 / 文字 / ダイグラフィア / 標準語史 / 書記体系 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、ロシア語・ウクライナ語・ベラルーシ語それぞれの標準語の書記体系の形成がいかなる言語イデオロギーに支えられて進展してきたのかを明らかにし、比較考察する。東スラヴ語3言語は多くの言語特徴を共有しながらも相互に独立した標準語の形式を確立しているが、標準語としての発展の方向付けにおいては様々な政治権力や宗教勢力の価値観・支配関係と密接に相関する言語イデオロギーが大きな役割を果たしてきた。標準語の構成要素の中でも特に書記体系は話者らにとって言語イデオロギーを可視化するシンボル的な存在である。本研究はそうした書記体系のあり方にも注目し東スラヴ地域を言語の側面から総合的に捉え直すことも目指す。
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研究実績の概要 |
本研究の実施にあたっては1)ロシア語・ウクライナ語・ベラルーシ語の文字体系成立過程におけるラテン文字使用をめぐる問題、2)ウクライナ語・ベラルーシ語の正書法の確立における言語純化主義の問題、3)3言語の書記体系選択における少数派の生存戦略の問題という3つの具体的な研究課題を設定しそれぞれの問題の考察を進めてきた。本年度は1)~3)のそれぞれの課題に関して、特にこれらの問題をめぐる最新の政治社会情勢との関連から集中的に研究を行った。 まず、ベラルーシ語表記におけるラテン文字使用の再活性化の最新動向について2020年の大統領選挙不正に関わる大規模抗議活動以後のベラルーシの状況に焦点を当てて考察した。この成果についてはソビエト史研究会のパネルディスカッションにて口頭発表を行った。さらに、ベラルーシ語表記におけるラテン文字使用への関心の高まりについて、2022年のロシア軍侵攻以降のウクライナ語の正書法・文字使用をめぐる最新の動向と合わせて比較考察を行い、ウクライナ語表記におけるラテン文字使用への関心の低さを明らかにした。この成果については日本ロシア文学会のワークショップにて口頭発表を行った。 また、ベラルーシ語の書記体系の成立過程について、キリル文字表記とラテン文字表記の併用状況を現代の最新の状況も含めて通時的に考察し、その実態をダイグラフィアという観点から再考した。この成果については、ワルシャワ大学で行われた国際学会にて口頭発表を行った。また、こうしたベラルーシ語表記のダイグラフィア的な状況が、実際の言語使用実践の中でどのようにみられるのかについて、ラテン文字表記の使用が伝統的に長く続けられてきたリトアニアのヴィリニュスの言語景観を事例として考察を行った。この成果については、日本スラヴ学研究会において「言語景観からみるスラヴ諸語」というパネル発表を企画し、口頭発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は、本研究を成す3つの研究課題のうち、特に1)3言語の文字体系成立過程におけるラテン文字使用をめぐる問題、3)3言語の書記体系選択における少数派の生存戦略の問題について集中的に研究を進めてきた。 1)の課題に関しては、特にベラルーシ語とウクライナ語について、それぞれの現代標準語の形成過程における文字使用をめぐる論争を踏まえつつ、さらにそれが最新の社会情勢の変化の中でどのような現状にあるのかを考察した。具体的には、ベラルーシ語に関してはベラルーシ政府が看板類におけるラテン文字表記の地名表示の廃止を決めたこととそれに対抗する形で生じた草の根のラテン文字表記の使用が増加しつつあることを指摘した。一方でウクライナ語に関しては、歴史的に見れば19世紀にラテン文字表記の導入をめぐる論争があったが、近年、特に2022年のロシア軍の侵攻以降は、表記法を含むいくつかの新しい変化が観察されているもののラテン文字表記採用への支持者はごく少数で国内において大きな議論も呼んでいないという点を指摘した。 3)の課題に関しては、特にベラルーシ語について、書記体系の成立過程で生じたキリル文字表記とラテン文字表記の併用状況を現代の最新の状況も含めて通時的に整理・考察し、その実態をダイグラフィアという観点から再考した。その中で、ベラルーシ語の表記の問題においては、キリル文字を排除しラテン文字表記を単独で用いることよりも両文字を並行的に使用するダイグラフィアの状況が、近年特にベラルーシ語の言語的独自性として象徴的な価値をもつようになっているという点を明らかにした。 いずれの研究課題についても順調な進捗があったものの、所属研究機関の移動に伴い、他業務との兼ね合いで十分な研究エフォートの確保が難しく、昨年度に進捗のあった2)の課題とも合わせて、論文として研究成果を取りまとめるのに時間がかかっている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は当初2年間の計画で研究を進めてきたが、研究成果を論文として取りまとめるのに時間を要しており1年間の期間延長を行った。来年度は本研究の3つの主要課題それぞれについて以下のような方策で研究を進めていく。 まず、1)3言語の文字体系成立過程におけるラテン文字使用をめぐる問題については、1年目の研究成果に2年目に取り組んだ最新の社会情勢と関連する現状の考察を含めて精緻化し、投稿論文という形でその研究成果の取りまとめと公開をめざす。 2)ウクライナ語とベラルーシ語の正書法の確立における言語純化主義の問題については、今年度ウクライナ語の書記体系の発展過程を正書法整備と文字使用の観点から考察・整理したその成果を生かし、既に研究を進めてきたベラルーシ語をめぐる状況との比較を行いつつ、投稿論文という形でその研究成果の取りまとめと公開をめざす。 3)3言語の書記体系選択における少数派の生存戦略の問題については、東スラヴ語3言語の中でも、ラテン文字表記支持者という相対的には少数派の人々が近年増加傾向にあるベラルーシ語の事例に特に注目する。その上で、文字使用においてキリル文字とラテン文字を並行的に使用するベラルーシ語の書記体系の独自性をダイグラフィア研究という観点から整理・考察し、その成果を論文として取りまとめ公開をめざす。
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