研究課題/領域番号 |
22K20014
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0102:文学、言語学およびその関連分野
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
岡部 祐佳 岩手大学, 人文社会科学部, 准教授 (10965081)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
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キーワード | 書簡体小説 / 近世文芸 / 艶書小説 / 注釈 / 翻刻 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、これまで等閑視されてきた近世前中期の書簡体小説、なかでも艶書(恋文)を主とする艶書小説について、作品刊行当時の文化的・思想的背景やそれに伴う読者の需要という視点から検討し、さらにその史的変遷を明らかにするものである。 具体的な手法としては、これまで等閑視されてきた作品を中心に、その表現や内容を同時期に刊行され流布していた教養書や往来物類の内容を補助線として注釈的に検討する。 こういった作業をとおして、これまで大きく中世的・実用的もしくは近世的・文学的と二分して把握されてきた近世書簡体小説史の捉え直しを試みる。
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研究実績の概要 |
令和5年度も、昨年度に引き続き『宇津山小蝶物語』の翻刻・読解と、西村本『小夜衣』の注釈・読解という二つの作業を行い、以下の成果を上げた。 『宇津山小蝶物語』については、全文の翻刻を完成させ、所属先の紀要『アルテス・リベラレス』誌上にて公開した。これにより、従来誤りや抜けがあり大量の伏字が施された翻刻しか備わっていなかった本作品の全容を明らかにすることができた。 また、本作品のタイトルと最終場面が、『荘子』「斉物論篇」にみえる「胡蝶の夢」の故事を基にしていることを指摘した。とくに最終場面では、源七という登場人物の口を借りて、万物の斉同を説く荘子「斉同論」の思想が表出されていた。深い理解に基づいているかについては慎重に考える必要があるものの、本作品が荘子思想の影響を受けていることを明らかにすることができた。それまでの多くの書簡体小説が仏教思想の影響を、享保期の書簡体小説が儒教思想の影響を色濃く受けていることを踏まえると、本作品にみえる荘子思想の影響は書簡体小説史上における本作品の特筆すべき特徴であるといえよう。 西村本『小夜衣』については、巻4の途中まで概ねの注釈をつけることができた。次年度中にすべての注釈作業を終え、その成果を紀要等に投稿する予定である。 また、これまで仮名草子『錦木』の模倣作という以上の価値を見出されてこなかった本作だが、注釈を行う過程で両者の相違点が浮き彫りになってきた。特に作品構造については、『錦木』より『小夜衣』のほうが、配列の上で整ったものになっていると考えられる。この点については次年度により詳しい調査を行い、研究発表・論文執筆を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
想定よりも授業準備や校務等に時間がとられ、本研究に割くエフォート率が低くなってしまったことが、遅れの最も大きな要因である。また、これまで仮名草子『錦木』の単なる模倣作とみなされてきた西村本『小夜衣』が、その細部において『錦木』とは異なる性質・方向性を持っていることに気が付き、より慎重に細かく分析する必要があると考えたため、注釈作業にも時間を要することとなった。
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度は、主に以下の作業を中心に行う。 ①西村本『小夜衣』の注釈完成・公開。②西村本『小夜衣』と先行作『錦木』の相違点について、作品構造および本文内容の点から考察し、その成果を研究発表および投稿論文にまとめる。③②の考察を基に、短編集形式の作品の流れの中における本作品の位置づけを検討する。 なお、以上の作業と並行して、書簡体の西村本浮世草子『花の名残』を読み進めていくことも予定している。
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