研究課題/領域番号 |
22K20019
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0102:文学、言語学およびその関連分野
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
林 英哉 三重大学, 人文学部, 特任准教授(教育担当) (80966531)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 想起の文化 / T4作戦 / 障害 / 北杜夫 / ベルンハルト・シュリンク / ナチス / 障害者 / 安楽死 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、ナチスによる障害者の安楽死政策「T4作戦」を題材とした文学作品を分析し、ナチスの戦争犯罪の記憶をつなぐための多角的な試みである「想起の文化」において、多様な視点からT4作戦を描き出すことに文学の意義があることを明らかにする。ナチスによるユダヤ人虐殺にかんする文学では、生存者自身の手によるノンフィクション性が重要視されてきたが、生存者の証言がないT4作戦はフィクションに頼らざるを得ない。しかし、そもそも文学作品は、現実のT4作戦をありのままに表象することを目指すのではなく、類似した状況についての一種の思考実験である。本研究は文学が持つフィクションとしての価値を考察する。
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研究実績の概要 |
ナチスの記憶と反省を後世につなぐ多角的試みである「想起の文化」において、文学はどのような役割を果たすことができるのか。この問いに答えるために、ナチスの障害者安楽死政策「T4作戦」を扱った文学に焦点を当て、被害者だけでなく加害者の視点を描くことができる点にフィクションとしての文学の価値があることを考察した。当該年度は、以下の3つの仕事を同時並行で進めた。 (1)T4作戦を取りあげた小説である北杜夫『夜と霧の隅で』(1960)の分析を行った。これまでの論文で取りあげた作品(『アントン』『フーゴー』)では、被害者である障害を持った子供が中心になっていたが、北の作品では加害者である医師が中心になっている。ナチスへの抵抗が結果的に患者を殺害することに至った点に、加害者という属性の判断の難しさがあることを分析した。現在、ドイツの学術雑誌に投稿するため、ドイツ語での論文執筆を進めている。 (2)「想起の文化」における文学をより多角的に捉えるため、同じく障害をテーマとしてはいるもののT4作戦とは異なった観点である、ベルンハルト・シュリンクの小説『朗読者』を分析した。読み書きができない障害を持つ加害者が、障害のない(読み書きができる)人間から罪を問われるという作品構造を分析し、研究会にて口頭発表した。現在、国内の学術雑誌に投稿するため、論文を執筆中である。 (3)当該年度に出版したドイツ語教科書『ドイツ語の基礎』に「想起の文化」についてのコラムを掲載した。ドイツの現代社会を規定するナチスへの反省という観点について、ドイツ語初学者向けにわかりやすく紹介した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(1)『夜と霧の隅で』の論文を当該年度中に完成させ投稿する予定だったが、(2)『朗読者』についての発表と論文執筆に時間を割くことになり、(1)のための時間を十分に確保することができなかったためである。ただし「想起の文化」というテーマについて、T4作戦にしばられずに、(3)教科書のコラムの執筆も含め、複数の側面からアプローチできた点は評価できると考える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は主に次の2つを進める予定である。まず『夜と霧の隅で』の論文を完成させ、ドイツの学術雑誌に投稿する。この作品では、医師が精神病患者をT4作戦から救うために懸命に治療を行うが、それが最終的に人体実験まがいのものとなり、患者の命を奪うところまでエスカレートしていく。ここに、ナチスへの加担と抵抗とを単純に区別できない難しさが表れていることを論じる。 次に『朗読者』についての論文を執筆し、国内の学術雑誌に投稿する。読むことができない登場人物と読むことができる登場人物との間にある優位性をめぐる力関係について論じ、障害のある人とない人との間にある軋轢について分析する。 また、ドイツにあるT4作戦に関する記念碑や施設をめぐり、「想起の文化」の文学以外の側面について調査する予定であるが、論文執筆に割く時間との兼ね合いで延期または中止する可能性がある。
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