研究課題/領域番号 |
22K20063
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0103:歴史学、考古学、博物館学およびその関連分野
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研究機関 | 大月短期大学 |
研究代表者 |
荒 哲 大月短期大学, 経済科, 准教授 (60963270)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | アジア太平洋戦争 / フィリピン / 日本占領期 / 対日協力 / 対日抵抗 / 階級上昇 / 相互扶助 / 日本占領 / 戦時暴力 |
研究開始時の研究の概要 |
世界史の一般的な傾向として、歴史の転換期における社会階級の変動が度々指摘されてきている。例えば、一つの社会における中産階級の形成は、ヨーロッパにおけるルネサンス期以降の欧州社会変容の一因となり、後のフランス革命発生の背景ともなる。当研究では、従来の東南アジア史研究で等閑視されてきた日本占領期フィリピン社会の社会変容の一端を、この時期に顕著となったといわれる階級上昇現象を手掛かりに検討し、戦前、戦中、そして戦後を経たフィリピン社会の階級上昇と、それを引き金とする戦後のフィリピン社会変容について解明する。
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研究実績の概要 |
2022年度における研究実績について述べることとする。本研究における研究活動は、この研究スタート支援に申請する以前より行われており、特段、この研究助成を皮切りとするものではない。従って、予算執行以前より、ある程度の研究成果が生み出されており、現在の研究活動からも今後の研究成果が大いに期待できるところである。 日本占領下フィリピンにおける階級上昇という観点からは、当研究では様々な切り口でこの時代を分析できると考えている。戦時下のフィリピン社会でうごめく、エリート以外の大衆の動きは、単純に抵抗と協力という枠組みで捉えきれないほど複雑である。中には駐留日本軍に取り入りながら、戦争物資などを売却して蓄財に成功した者、こうした蓄財に成功した者が抗日勢力に資金援助を施したり、日本軍当局によりゲリラ嫌疑などの容疑によって拘束され、長期間収監されている者らに対して資金援助や食糧援助を施していた例もあった。 現在、日本とアメリカで収集された資料を基に新たな英文論考、Resistance and Collaboration over Atonement, Submission and Persuasion: People at the margin during the Japanese occupation of the Philippines(日本語題名、「悔恨、服従、説得をめぐる抵抗と協力:日本占領下フィリピン周縁社会の大衆史」)と題する論文を執筆中である。ここでは、二人の対日協力者の動きに焦点を当て、一つ目の例としては戦前期の犯罪に対する「罪滅ぼし」的な物質援助や人命救助に関わった人物、二つ目の例では、戦前期に培われた高級日本軍将校とのコネクションを利用しながら、戦時下フィリピンで苦難に喘いでいる人々に対して道義的かつ物質的援助を施した人物について分析している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度の研究活動においては、主に東京の国立国会図書館にある憲政資料室内に所蔵している日本占領期文書、いわゆるGHQ/SCAP文書の閲覧と資料収集を集中的に行った。この史料では、戦時下のフィリピン社会における大衆の経済活動に関する資料よりもむしろ、駐留日本軍が犯した様々な戦争犯罪に関する資料が多く見受けられたが、戦時下の状況を利用しながら、かつ駐留日本軍と対日協力を行いながら蓄財に成功した者に関する記録もわずかながら散見された。また、駐留日本軍の中でも特に外地憲兵隊が関わる戦争犯罪に関する記録も多く存在した。その中でもゲリラ嫌疑者として拘束を受けた現地フィリピン人が、地元の日系企業の社員らによって助けられた記録も少なからず存在し、当時の戦時下社会の複雑な状況が単に協力や抵抗、加害や被害といった単純な視点だけでは理解できないことが明らかになりつつある。 もう一つの研究活動として、ワシントンDC郊外にあるメリーランド州カレッジパークの米国国立公文書館2号館における記録調査を行った。これは、3月の中旬から下旬にかけて行われた。そこで得られた資料の多くは、日本占領期から独立直後にかけての戦後復興期におけるフィリピン社会の実情が把握できるものであった。フィリピンを「解放」した米軍は、日本軍撤退後もフィリピンの各地に駐留し続け、フィリピン民事部隊(PCAU)を組織化して、経済的に疲弊したフィリピンの復興援助を行った。今回渉猟した史資料の多くが、この戦後復興期のフィリピン社会の特質、とりわけ治安悪化に関連する内容で占められる。この史料により、日本占領期がフィリピン社会にどのような影響を与えるに至り、それが戦後のフィリピン社会のどの部分を変化させることになったのかについて明らかにできると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
「研究実績」の項目でもすでに触れたように、現在、この研究計画に沿った英文論考を執筆中である。ただし、この論文で議論されている事例は、収集された史料のごく一部のみに基づくものであり、分析内容としては未だ不十分である。学界全体の傾向としては、日本占領期の周縁社会に関連した研究はその緒にばかりであり、実証研究は極めて少ない状況にある。本研究は、そのギャップをいくばくとも補完するものであるが、今後はフィリピン国内の古文書館や図書館に所蔵されている一次資料を収集しつつ、その記録内容を吟味しながら、より一層具体的な分析内容にしていきたいと考えている。 米国での調査はひと段落着いた段階であるが、今年は夏以降にフィリピン国立大学中央図書館に所蔵してある特別国民裁判所記録を調査しつつ、米国での調査内容と照合しながら、新たな事実解明に取り組む予定である。現在執筆している英文論考に基づいた学会報告を所属学会である「東南アジア学会」にて計画している。
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