研究課題/領域番号 |
22K20099
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0105:法学およびその関連分野
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
十河 隼人 早稲田大学, 法学学術院, 講師(任期付) (80962018)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 刑法 / 刑罰 / 責任 / 自由意志 / 非難 / 他行為可能性 / 応報 / 自由 |
研究開始時の研究の概要 |
刑法上、責任のない者は処罰できない。この点、通説によれば、責任は、行為者がその自由意思により「違法行為を控えることができたはずだ」といえる場合にのみ存在するとされる。もっとも最近では、法哲学的分析を背景に、これに異を唱える「他行為可能性不要論」が有力化している。両立場の論争は、窃盗症患者の責任能力をめぐる近時の裁判例に対する評価など、具体的な解釈論にも影響を与えている点で重要である。そこで本研究は、「なぜ刑事責任にとって他行為可能性が必要なのか」という原理的問題に正面から取り組むことで、通説をアップデートすると同時に、上記論争に対して新たな角度から介入して、有望な解決指針を示すことを目指す。
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研究実績の概要 |
2022年度は、近時、英語圏の自由意思論・刑罰正当化論において存在感を増しつつある「自由意思懐疑論(Free Will Skepticism)」について、その現代における代表的な支持者であるGregg D CarusoおよびDerk Pereboomの著作を中心に、関連文献を収集・読解した。その中でも、刑法への応用を視野に入れて活発な執筆活動を展開しているのはCarusoであり、その主著であるRejecting Retributivism (CUP, 2021)の分析に時間を割いた。 その結果として、自由意思懐疑論は、①刑罰制度の単なる廃棄を主張するものではなく、むしろ、自由意思(他行為可能性)や応報といった観念から解放された、合理的な刑罰制度の構築のための建設的な指針を示すものであること、②刑罰正当化論においてわが国でも近時有力な応報刑論に対して、わが国では必ずしも認識されていない複数の問題点を提起するものであること、などが明らかとなった。 なお、文献の読解作業と並行して、英語圏の自由意思・道徳的責任論に関する基礎的文献であるMatthew Talbert, 'Moral Responsibility' (Stanford Encyclopedia of Philosophy, Fall 2022)および、上記「主著」の要約といえる論文であるGregg D Caruso, 'Retributivism, Free Will, and the Public Health-Quarantine Model' in M C Altman (ed), The Palgrave Handbook on the Philosophy of Punishment (Palgrave Macmillan, 2023)の翻訳作業を進め、完了した。いずれも23年度中に公表される予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、自由意思・刑事責任論をめぐる外国語文献の収集・読解に時間を割く予定であったところ、これを行い、本研究課題の関心にとって重要な業績群を特定し、よりフォーカスを絞った(すなわち自由意思懐疑論、特にCarusoの見解を対象とする)検討に進むための準備を整えることができた。また、上述の通り、2本の論文について、その翻訳作業を完了することができた。その一方で、本年度はドイツの議論状況も調査する予定であったが、英語圏の自由意思懐疑論の展開が、わが国の刑法理論にとって、当初の予想を上回る重要性を有していることが明らかになったため、英語圏の議論の分析に注力することとした。 以上から、本研究は現在のところ、「おおむね順調に進展している」ものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
英語圏の自由意思懐疑論は、刑法分野はもちろん、哲学・倫理学分野でも、必ずしも詳細な紹介が進んでいるわけではない。それゆえ今後は、同理論の議論状況を、とりわけCarusoの見解を中心に紹介し、わが国の刑罰論・刑事責任論と接合させる論文の公表を目指して、よりフォーカスを絞った文献読解・分析と、論文執筆作業とを進めることにする。さらに、本年度の研究を通じて、刑事責任概念と応報刑論との結びつきは、自身がこれまで考えていたよりも強いものであることが明らかとなった。したがって、刑事責任の解釈論への直接的な応用を目指す前に、もう一段抽象的なレベルにとどまって、刑罰正当化論との関係を視野に入れながら検討を進めるのが、今後の方針として適切であると考える。
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