研究課題/領域番号 |
22K20104
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0105:法学およびその関連分野
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研究機関 | 阪南大学 |
研究代表者 |
柴田 正義 阪南大学, 国際コミュニケーション学部, 准教授 (70961960)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | ロシア正教会 / 人権 / 宗教 / 信教の自由 / 政教関係 / 世俗国家 / ナショナル・アイデンティティ / 法意識 / ロシア法 / 宗教法 |
研究開始時の研究の概要 |
2020年7月の憲法改正により、ロシア連邦憲法に「1000年の歴史により統合されたロシア連邦」や「神への信仰を我々に伝えた先祖の記憶」といった文言が追加され(67条の1第2項)、ロシア正教会はロシアのナショナル・アイデンティティの中枢に据えられた。一方、ロシア正教会は2000年代より独自の「人権論」を公言するようになり、その「人権論」は連邦憲法裁判所および国内の人権保護機関と方向性を一にする。 本研究は、今後、その存在がより克明になるであろう「ロシア正教会型人権論」がロシアの人権保障実務およびナショナル・アイデンティティの形成過程に及ぼす影響について分析するものである。
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研究実績の概要 |
今年度は、第一に教会法史および正教文化の発展史に関する研究を行った。本研究においては「国家と宗教のシンフォニー」という概念をキーとして、ロシア正教会の価値観や文化が現代ロシアにおける法領域とどのように接続しているかを明らかにすることが求められるが、これらを示す手掛かりは、後述するように、立法段階における立法者および専門委員会参加者による提案や、国会における議論がどれだけ「ロシア正教会型『人権論』」を反映しているかといった点に限定される。現状の研究においては、例えば聖エイレナイオスの「人権」観(彼によれば、人権とは神の栄光を表すための手段にすぎない)に基づく正教会の「人の尊厳・自由・権利」をめぐる理解を整理したが、これで一先ずは十分であるとの理解に達した。 ロシアにおける「国家と宗教のシンフォニー」は、公式には2018年に初めて言及された概念であり、必ずしもロシア史を貫通する考え方ではないことが明らかになった。無論、帝政期の「正教の国家装置化」や、明言せずともそうした趣旨を感じさせる事情は枚挙に遑がないが、やはり時の政権が国家を支配するためのイデオロギー的要素の強さを考慮する必要がある。こうした理解から、歴史研究的要素に増して、現代における事例の検討のをより重視すべく、今年度は、宗教法改正をめぐる諸議論の変遷、エホバの証人解散事例、2020年憲法改正に関連する議論を中心に検討:分析を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ロシア正教会法史および正教文化の発展史について検討する中で、現代の法領域と関連しうるものについては、上記の聖エイレナイオスの議論および「義務の法」概念等を抽出することで、概ね完了した。これらは、いわゆる「ロシア正教会型『人権論』」の中核をなすものと理解することができる。その他、教会法史上の各時代において重要な議論は散見されるが、それらは帝政期の世俗化政策やソ連時代の宗教政策の下で力を失っており、現代の「人権論」には反映されていない。こうした点に鑑み、本研究の柱の1つであった歴史研究については、現段階ではほぼ完了したとみなしている。 一方、「ロシア正教会型『人権論』」の実相を明らかにする上でより重要な論点として浮上したのが、現代における宗教法の運用および宗教法改正をめぐる議論である。特に立法過程における人的要素に着目して、ロシア正教会の伝統的な価値観等が法領域にどのように反映されているかを明らかにすることが、現代ロシアにおける人権保障実務に関わる本研究のもう1つの柱である。こちらについても1997年制定宗教法に関する全34回の改正および廃案となった改正案を分析することで研究を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度、現代ロシアにおける人権保障実務における「ロシア正教会型『人権論』」の現れについて、裁判実務を中心に検討する。エホバの証人解散事例については昨年度扱ったため、家族関係やLGBT問題を中心に扱う予定である。
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