研究課題/領域番号 |
22K20129
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0107:経済学、経営学およびその関連分野
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
小川 翔吾 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 講師 (40964440)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 不均衡 / 在庫変動 / マクロ経済学 / 数量制約 / 経済動学 |
研究開始時の研究の概要 |
企業が需要数量を知覚した際に生産および雇用計画を修正する過程をモデル化する。特に、需要数量が不足し生産が縮小する停滞的な不況の発生メカニズムを理論的に分析する。 理論的基礎として、価格調整が需給一致を導く均衡理論でなく、価格のかわりに数量を調整し需給不一致のまま取引する不均衡理論を用いる。これにより、計画と実現の非整合性が市場を伝播する漏出効果をとらえ、財需要不足の制約が持続する要因を考察する。
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研究実績の概要 |
当該年度は、現在執筆中のサーベイ論文を修正し、市場不均衡に面した企業や家計などの経済主体が意思決定を修正するメカニズムについて追記した。また、いくつかの先行研究の中から、取引の時系列を分解し、各時点ごとに取引を行う一時的均衡理論が不均衡理論に言及していることを受け、各理論の類似点と違いを考察した。 一時的均衡理論や非模索過程といわれるモデルは市場の価格調整の完了を前提とせず、ある程度合理的な範囲で交換を行う時系列を描写することができる。しかし、その途中での市場内の相対交換自体にはあまり触れられておらず、各時点の交換の帰結が各主体の今後の取引にかかわる期待や計画に影響を及ぼす経路が明示化されていない。 このため、これまで検討してきた不均衡理論における意思決定メカニズム(市場での数量の制約を感知し計画を修正する市場間の漏出効果)を、既存の一時的均衡理論に適用し拡張することで時系列を分解し、標準的な一般不均衡理論を作成できることができると考えられる。現在、抽象的な数理モデルを検討中である。 加えて、現在執筆中の在庫変動モデルに修正を加えた。これまでは長期的な調整を念頭に置き、企業が考慮する数量変数として資本設備と在庫量の比率を用いて生産計画をモデル化していたが、短中期的な変動をよりとらえるために在庫量と期待売り上げ量との比率を用いたモデルに修正したものを作成した。単純なモデル分析にとどまっているが、長期モデルで再現できた在庫の定性的な変動を再現することができており、加えて他の中期変動モデルを参考にしてよりモデルを拡張することが期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
先行研究では「ある時点の取引数量の配分が決定される」メカニズムとして不均衡理論が言及されていたのだが、研究のサーベイの中で、時系列を分解し不均衡取引を再定義しようとしている研究が存在することを発見した。この文献をもとにモデルの構築方針を修正する必要が出てきたため、モデル構築の面から当初の予定よりやや遅れていると考えられる。 これに関連して、2022年度内に完成させる予定であったサーベイ論文の執筆にも修正が必要となった。2023年度内の修正完了は可能であるので、当初よりやや遅れている。 在庫変動の理論モデルに関しては、企業の売り上げ期待が静学的・適応的な範囲でのモデル構築を予定していたが、市場での売り上げ実績の変化から今後の売上数量制約に関する期待の変動を取り込むことができる可能性が見つかったので、当初よりも現実的な設定の下でのモデルの拡張を行っている。最終的なモデルの完成は当初よりは遅れていると言えるが、研究しているモデルの拡張可能性や有効性の点では当初の予定より進行していると言える。これを総合すると、在庫変動モデルの分析に関しては当初の予定と大きく相違しているわけではない。 当初予定していた価格の非対称的な調整モデルに関しては、これをやや抽象化した取引の時系列モデルを検討中である。これに関しても、当初よりさらに一般化した議論が期待できる一方で、2022年度内にモデルが完成したわけではないので、総合すると予定との差はあまりないと言える。 これら3つの面を総合すると、やや遅れていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
不均衡理論のサーベイ論文に関しては、Benassyらが初期に行っていた時系列を分解したモデルを参考にしつつ、一時的均衡理論に継承されている不均衡の数量シグナルの理論を含めた形で文献調査の欄を修正する。 在庫変動モデルの論文に関して、企業の期待する売上変動について以下の3種類のモデルを作成し比較する。(1)各時点の最適化問題での計画時間での売り上げは一定とするが、毎期水準を適応的に変化させる、(2)最適化問題において、企業は計画期間のうちに漸次的に売り上げが正規水準に落ち着いていくと期待する、(3)企業は(2)と同様に売り上げはそのうち正規水準に落ち着くと考えるが、計画直前の、実際の売り上げの変化率がしばらく続いてから落ち着くと期待する、の3種類である。これらは期待の適応性と合理性のモデルの特徴を比較するとともに、(3)を分析することで市場に関する楽観・悲観的予測が慣性を持つモデルを構築し、この変化が企業の雇用調整に与える影響を定式化することが期待できる。 加えて、不均衡取引を時系列に分解するモデルを構築する。これには既存の不均衡動学モデルに加えて、価格および数量の期待の状態依存に関する理論を導入する。すなわち、現時点での売り上げの数量と価格の両方に依存する形で両変数の調整計画を立てる形で構築する。とくに、貨幣取引の面から売り手・買い手の非対称性に着目し、超過供給と超過需要の間で質的に異なる調整が行われる可能性を検討する。
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