研究課題/領域番号 |
22K20131
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0107:経済学、経営学およびその関連分野
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
岡島 広子 名古屋大学, 経済学研究科, 講師 (10967590)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 数理モデル / 海外学会発表 / 医薬品生産 / 受託生産 / 確率的動的計画法 |
研究開始時の研究の概要 |
新型コロナワクチンの供給で明らかになったように、医薬品の供給が少しでも停滞すれば、社会全体に深刻な影響を及ぼしかねない。今後も起こりうるパンデミックに対して迅速に対応できる社会を構築するためには、高い不確実性の下で製薬会社はいかに生産能力拡大を図るべきかを考察することは重要である。本研究では、新薬開発を取り巻く様々な不確実性と企業のリスク選好度を考慮した上で、製薬会社の新薬開発における生産能力拡大にかかわる意思決定を適切に行うことを支援するモデルを数理モデルと実験室実験の2つの面から考察する。
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研究実績の概要 |
2023年度は、(1)マーケットデータの比較検討、(2)数理モデルの再構築、(3)研究成果の発表を行った。 (1)と(2)は、相互に影響するので並行して行った。分析に要する主なデータ項目は、医療用医薬品の売上数、価格、製薬会社の生産コスト、医薬品受託生産会社の生産コストである。これらの入手可能性を踏まえて購入先を数社に絞った後、IQVIA社のデータベースが充実していると判断し、担当者とビデオ会議で具体的なデータの内容を話し合った。その結果、データ期間は最長10年であること、予算の制限から購入できるのは1品目のデータであるという制約が明らかになった。一方、一品目なら、予算内で複数の市場のデータを得られることが分かった。これらに基づき、当初の数理モデルの変更を試みた。 (3)に関して、研究計画で予定していた海外での学会報告を行った。学会は当初予定していた経営系の学会ではなく、経済系の学会(Midwest Economics Association、第88回年次大会、シカゴ)に変更した。確率的動的計画法を用いた数理モデルによる分析結果が主な発表内容であったため、マクロ分析で同様のモデルを用いることが多い経済系の学会で発表するほうが効果的と考えたためである。大会では、製薬企業と医薬品受託生産会社との契約形態に関していくつか質問された。現モデルでは、契約数量に制限は設けず、今期(今年)に生産量を伝えれば、受託生産会社は次期(来年)に確実に製品を納品するとしている。しかしながら、実際の契約形態は、対象となる医薬品を受託生産会社が複数年(通常3-5年)に渡って一定量生産することを製薬会社に保証するものが多い。すなわち、毎期の生産量には契約期間ごとに上限が設けられている。これらを数理モデルに取り込むことでモデルはより現実的になる一方、解法が複雑化するため、慎重に検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(3)と判断するに至った研究上の最も大きな理由は、購入できるデータに大きな制約が生じ、その結果、使用できるデータに合わせて数理モデルを数度にわたり変更しなければならなかったことである。まず、購入可能なデータ期間が、当初予定した期間より大幅に短いことが明らかになったため、分析期間の見直しが必要となった。これまでは、開発後期から特許が切れるまでの15-20年程度を分析期間としており、新薬のライフサイクル全体を分析することを意図していた。しかしながら、データ会社が標準で提供しているデータの収集期間が上限10年であったため、開発後期から発売初期までの期間(3-5年)に分析対象を限定することを検討した。この期間は、新薬発売に向けて生産能力の確保に関して最も重要かつ困難な意思決定を行わなければならない時期である。そのため、この期間に限って分析することには意義があるものと判断した。また、より現実に即した分析を行うため、これまで分析に入れてこなかった他社との競争をモデルに組み込むことを検討した。開発競争の激しさは、社内生産か生産の外部委託かの意思決定に大きな影響を及ぼすと考えたためである。しかしながら、ここでも問題が発生し、購入するデータ期間を短縮したとしても、2社の製品データを購入すると価格が予算を上回ることがわかった。データ会社が米国の会社であるため、円安も大きく影響した。このような経緯から、当初計画していた数理モデル再構築後のパラメーター推定に取り掛かるのが遅れている。 なお、データ購入に予算の大部分がを費やさなければならないため、研究計画で予定していた実験室実験を行うことが事実上不可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画では、数理モデルの構築、データを用いた構造推定、実験室実験による検証を3つの柱としていた。しかしながら、予算内で入手できるデータに制約が生まれ、研究の方向性の見直しが必要となった。効果的に研究成果をあげるため、実験室実験は見送り、数理モデルの再構築とデータを用いた分析に焦点を絞ることとする。 データ購入は非常に高額であるため、ターゲットとする医薬品の選別を慎重に行う。具体的には、疾病領域、市場規模、開発競争状況、医薬品受託生産業界全体の生産能力の推移等を多面的に分析し、特定の製品に絞り込む。例えば、昔の事例になるが、承認後数年で供給不足が深刻化した関節リウマチ薬Enbrelなどがある。なお、新型コロナのワクチンに関するデータが使用できることを期待していたが、データの信頼性が低いということが分かり、分析に適さないと判断した。今後、データ提供会社からも継続して意見をもらい、ターゲットとする医薬品名、市場、期間を決定する。 購入するデータは一製品に限られる可能性が高いが、都市別や国別のデータが入手できるので、数理モデルとは別に、統計的手法を用いた分析にデータを再利用する可能性も探る。データ購入の際は、どのような分析にデータを使用するかを購入前にデータ会社に示すことが必要になる。そのため、データ購入の前に統計的分析モデルも確立しておく必要がある。
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