研究課題/領域番号 |
22K20156
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0107:経済学、経営学およびその関連分野
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
久保 亮輔 一橋大学, 大学院経済学研究科, 教育職(教務職員)相当 (20961957)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 寄進 / 信託財産 / ワクフ / エジプト / 経済史 |
研究開始時の研究の概要 |
アラビア語でワクフと呼ばれる寄進慣行をめぐっては、これまで寄進時および規定の改変時に作成されるワクフ関連文書に依拠して研究が進められてきた。他の文明圏の並行事例との比較を念頭に置いた研究でも、寄進者の属性、寄進(信託)財産、受益対象、寄進の目的、寄進(信託)財産の運用形態などを共通の論点とし、これらをワクフ関連文書にもとづき検討する点で、個別事例の比較にとどまっていた。本研究は、経済現象としての寄進(信託)行為とその背後にある法規範との関係性を共通の論点とすることで、各事例さらには文明間で相違が見られた要因をも含む包括的視点からの比較を可能にする視座をイスラム史の立場から提案する試みである。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、経済現象としての寄進・信託行為とその背後にある法規範との関係性を15-16世紀エジプトの事例にそくして検討すること、そしてその特質を他の文明圏の類例と比較するための視座を打ち立てることである。この目的の実現のために、2023年度はワクフ(信託財産)をめぐるハナフィー派法学者の議論を参照するとともに、主要な先行研究に依拠しながら法廷記録がワクフ経営のどのような実態を示しているのかを探った。その結果明らかになった今後の展望は、以下のとおりである。 まず、当初の計画では15-16世紀エジプトを主な検討対象としていたが、16世紀エジプトのワクフ経営をめぐる問題を検討するなかで、オスマン朝征服直後にハナフィー派を中心に再編された司法体制がオスマン期(1517-1798年)をつうじてエジプトのワクフ経営のあり方を規定していたことが明らかとなった。このことは、ワクフに求められた永続性と王朝交代に伴う政治変動の相克が社会経済関係のあり方をも規定していたことを示唆している。今後は、オスマン期全体を視野に入れたうえでエジプトのワクフ経営のあり方を探る必要がある。断絶と連続の双方の視点を踏まえたうえで研究を進めることで、エジプトの特質を明らかにする展望もみえてこよう。 また、これまでに取り組んできた研究の成果をまとめ、初の単著となる『前近代エジプトにおけるワクフ経営のダイナミズム:法学説と現実』を刊行した。この著作では、現代エジプトの問題状況を念頭に置きつつ、ワクフやイスラム法をめぐる問題を取り上げる意義を、歴史学の観点からのみならず、経済学の観点からも説明した。 この他に、イスタンブルのスレイマニエ図書館と首相府オスマン文書館にて史料調査を実施し、未刊行史料を入手することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
他の文明圏との比較にかんしては、ほとんど取り組めていない。その最大の理由は、単著の出版に向けた準備に時間を要したためである。ただ、ワクフやイスラム法をめぐる問題を取り上げる意義を、歴史学の観点からのみならず、経済学の観点からも説明した本著作の刊行により、隣接分野への波及効果や分野の垣根を超えた学際研究の可能性も拓けてこよう。以上を総合的に勘案し、全体としてやや遅れていると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度の検討で明らかになった課題に取り組む。すなわち、オスマン朝征服直後にハナフィー派を中心に再編された司法体制を念頭に置きつつ、オスマン期全体をつうじてのエジプトのワクフ経営の展開を明らかにすることである。 それにくわえて、他の文明圏との比較についても可能な限り関連文献の調査と学会・研究会等での交流をつうじて研究を進める。2022年度の検討では、イスラム文明圏内での地域間比較の必要性と可能性が明らかとなったが、2023度の検討では同一地域においても時代によってワクフ経営のあり方が大きく変容していることが明らかとなった。イスラム諸王朝の歴史的展開を念頭に置きつつ、比較の視座をどのように定めるかについても再考する必要があるだろう。
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