研究実績の概要 |
謝罪は,対人関係の継続に際して重要な対処法のひとつであり,その心理メカニズムの解明はひとの社会を維持する上で有益な知見となる。これまでの心理学研究では,謝罪は主に罪悪感が促す向社会的行動のひとつとして取り扱われてきた(e.g., Baumeister et al., 1994)。しかし,謝罪が「関係を修復する」という目的を持つ以上,その関係にある相手だからこそ発生する何らかの認知的あるいは感情的な他の要因が加害者の宥和行動に影響を及ぼすはずである。本研究では,被害者側の宥和行動の規定因である“共感”を取りあげ,加害者側の宥和行動や,これまでの研究で謝罪のひとつの要因であることが示されてきた罪悪感との関係を明らかにする。 罪悪感・共感と謝罪とのお互い及ぼす影響の関係性については幾つかの可能性が考えられる。これら三変数に着目した先行研究としてはHowell et al.(2012)が挙げられるが,当該研究では実験の手法上,共感‐罪悪感の経験順序を論じられてはいない。本研究では,共感は罪悪感の発達に欠かせないものであるという発達心理学分野の知見に基づき(e.g., Zahn-Waxler, & Robinson, 1995),謝罪相手への共感によって罪悪感が促され,謝罪を導く,という関係性を予測し,これを検証する。社会場面でしばしば重要な意味を持つ謝罪について,その感情的な規定因を明らかにすることは,仲直りの過程において被害者側の許しを重点的に扱ってきたこれまでの研究に対し,新たな視点から考慮するきっかけを与えるだろう。
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