研究課題/領域番号 |
22K20324
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0110:心理学およびその関連分野
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
鈴木 啓太 立命館大学, 総合心理学部, 助教 (70962132)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 暗黙理論 / マインドセット / 社会生態学的アプローチ / 教育制度 / 課題選択の自由度 |
研究開始時の研究の概要 |
「人間の能力は努力で変わるかどうか」という信念は暗黙理論と呼ばれ、学業・スポーツ・仕事など私達の日常の課題達成に大きな影響を与える。その重要性に関わらず、人が特定の暗黙理論を獲得するメカニズムは十分に検討されていない。本研究では、置かれた環境において利益をもたらす心理・行動傾向が獲得されるとする社会生態学的アプローチに基づいて暗黙理論獲得のメカニズムを検討する。課題選択の自由度が少ない場合、特定の課題に努力を注力させる増加理論(能力は変わるという信念)を持ちやすくなるという仮説の検討を、教育制度における課題選択の自由度が異なる高校の調査や、課題選択の自由度を操作する実験室実験を通じて行う。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は能力の可変性に関する信念である暗黙理論が獲得されるメカニズムを検討することである。この目的のためには、特定の暗黙理論を持つことが行動や認知に与える影響を包括的に明らかにする必要がある。本研究は、他者と共同で課題に取り組む場面(研究1)、他者の努力や失敗経験をもとに課題の差配を行う場面の2つの場面(研究2)に着目し、それぞれの場面で暗黙理論の影響を検討した。 暗黙理論は、「能力は可変的である」とする増加理論と、「能力は固定的である」とする実体理論に別れる。研究1では協同学習場面、特に学習内容が理解できない場面に着目し、暗黙理論が他者への学業的援助要請に与える影響を検討した。大学生を対象に、協同学習において自分だけ学習内容がわからない場面を想起させるシナリオ実験を行い、他者に内容についての質問意図を測定した。分析の結果、個人の暗黙理論と他者の暗黙理論の予測が質問意図に影響を与えていることがわかった。具体的には、実体理論者は他者が増加理論的であると予測すると質問意図を抑制することがわかった。逆に増加理論者は他者の暗黙理論の予測に関わらず質問意図は一定であった。 研究2では、暗黙理論が他者の努力や失敗の認知およびその後の課題の差配に与える影響を検討した。社会人を対象に、会社のある部署の上司として、新しく異動してきた新人に仕事の差配をする場面を想起させるシナリオ実験を実施した。その際、当該新人が以前の部署で成績が振るわなかったという情報を提示した。また、以前と現在の部署で業務内容が共通する程度を操作した。分析の結果、増加理論者は業務内容の共通性によって仕事を差配する程度を変えていなかったが、実体理論者は業務内容が同じ場合に比べ異なっている場合にはより仕事を差配することが明らかになり、過去の努力や失敗に関してその領域の違いを考慮していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
報告者は、当該年度において大きく次の2つの研究課題を遂行してきた:暗黙理論が学習援助要請に与える影響の検討(研究1)、暗黙理論が他者の努力・失敗の認知に与える影響の検討(研究2)。 研究1について、本年度は(i)学会での成果発表、(ii)学会でのフィードバックを踏まえた追試の実施、の2点の進捗が得られた。本年度は研究1の結果を”The 44th Annual Meeting of the Cognitive Science Society”で発表を行った。質問項目やシナリオ等、方法論における改善点の議論を行い、それらを改善し、サンプルサイズの設計と仮説を事前登録した上で、現在追試を実施している。参加者の募集のペースは当初の予定をやや下回っているものの、着実に進捗が得られている。 研究2について、本年度は(i)オンライン実験の実施、(ii)成果発表準備の2点で進捗が得られた。社会人を対象に、会社のある部署の上司として、新しく異動してきた新人に仕事の差配をする場面を想起させるシナリオ実験をオンラインで実施した。その際、当該新人が以前の部署で成績が振るわなかったという情報を提示した。また、以前と現在の部署で業務内容が共通する程度を操作した。分析の結果、増加理論者は業務内容の共通性によって仕事を差配する程度を変えていなかったが、実体理論者は業務内容が同じ場合に比べ異なっている場合にはより仕事を差配することが明らかになった。これらの結果は、実体理論者は過去の失敗に関してその領域の違いを考慮しており、過去の失敗があっても、今の部署が異なるのであれば、当該新人に仕事を差配する程度を大きくは下げないことが示唆された。これらの結果は2024年度日本社会心理学会で発表を行うために準備を進めており、学会発表でのフィードバックを踏まえ、追試や論文投稿の方向性について策定していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
来年度はまず本年度から実施している追試の完遂を目指す。現在の募集のペースのまま推移すれば、年度の中盤ごろまでには収集が完了する見込みである。その後、データ分析・学会発表を行い、元となった研究と合わせて論文投稿を行う。 また、これまで実施してきた研究をレビュー論文としてまとめる形で論文投稿を行う。具体的には、従来の暗黙理論研究が特定の与えられた課題に個人で取り組む場面に関心が集中していたことを、レビューを通じて確認し、課題に選択肢がある場面における暗黙理論の働きを検討してきた報告者の一連の研究を紹介し、その意義や今後の展開可能性について議論を行う。
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