研究課題/領域番号 |
22K20346
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0202:物性物理学、プラズマ学、原子力工学、地球資源工学、エネルギー学およびその関連分野
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
栗栖 実 東北大学, 理学研究科, 助教 (00963943)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | ミニマルセル / ソフトマター / 生命の起源 / ベシクル / 進化 / 自己生産 / 高分子 |
研究開始時の研究の概要 |
生命とは、高分子や膜などのソフトマターが化学反応ネットワークを介し連携する事で自己生産し進化する非平衡システムである。本研究の目的は、この生命という特異な物質の存在様式がどのような物理法則に従ってこの自然界に発生し得るのか、ソフトマター物理を軸に、生命と同じように自己生産し進化する単純な分子システム「ミニマルセル」の構築を通して探索することにある。本研究ではミニマルセルの遺伝子に相当する情報高分子に変異を与え、それに応じた自己生産能力の変化を実験と数理モデルから探索することで、進化するミニマルセルを構築する。本研究により、物質と生命を繋ぐ物理法則の解明に向けた生命の新たな物理的描像を提示する。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、膜コンパートメント(ベシクル)と情報高分子という2つの基本構成要素を軸に、自己生産や進化などの生命システムの本質的な特徴を単純な人工系で再現するモデル実験系「ミニマルセル」を構築することにある。その上で本年度は、自己生産と進化に関する次の2つの課題に取り組んだ。(i)代表者がこれまでに構築してきたベシクルの膜成長・分裂系は世代を経るごとにサイズの減少が見られたため、世代間でベシクルのサイズが保存される自己生産サイクルを構築する。(ii)従来はベシクルを膜成長させる情報高分子としてポリアニリンという高分子1種類のみを用いてきたので、自己生産系の競争(さらに進化)を実験系として実現するために2種類目の高分子を見出す。 (i)に関しては、ベシクルの内外に持続的に浸透圧を課す機構を従来の実験系に導入することで、膜成長→変形→分裂→体積成長の4過程からなる持続的な自己生産系の構築に成功した。これにより自己生産による世代間のサイズ減少の問題が解決され、マイクロインジェクションによる材料分子の供給にトリガーされる4世代にわたるベシクルの自己生産サイクルを実現し、この成果を原著論文として出版した。 (ii)に関しては、外部溶液からベシクル膜への膜分子取り込みの触媒として従来用いていたポリアニリンに加えて新たにポリピロールを同様の機能を実現する高分子の候補として研究を進めた。まず先行研究をもとに代表者の自己生産系に適した新たな高分子合成方を開発することに成功した。そしてこの高分子ポリピロールがどの程度ベシクル膜の成長に寄与するのかを検証するため、動的光散乱法によりポリピロールが膜表面に合成されたベシクルに膜構成分子を外部から供給した場合の膜成長率を測定した。その結果、ポリアニリンと並んでポリピロールも膜成長を著しく促進するベシクルの情報高分子として有用であることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
一年半の研究期間のうち、ベシクルと高分子からなる自己生産系の進化を実現しうるような2種類目以降の情報高分子を当初の想定では期間一杯の時間を費やして探索する予定だったが、期間初年度のわずか半年の研究期間で高分子ポリピロールがベシクルの膜成長を選択的に促進する情報高分子として機能することを定量的に示すことができた。本研究ではベシクルの自己生産系を進化させる上で情報高分子と膜分子両方のバリエーションを増やすことで各ベシクル間の競争を実現することを試みるが、このうち新たな情報高分子の探索はその合成法の確立や膜成長の定量的な測定法の確立など、新たに多数の取り組みが必要であるという点で本課題で最も時間がかかるトピックだと想定していた。わずか半年でこのトピックを開拓できたのは想定以上の進捗状況であり、引き続き膜分子の多様性の探索も当初の計画を早めて取り組むことができる。 またこうしたモデル実験系構築の試みに加えて、そこから物質と生命を繋ぐソフトマターの組織化原理を見出すのも本課題の目標である。これはモデル実験系を記述する数理モデル構築というアプローチをとるが、この半年間でベシクルの自己生産サイクル(膜成長→変形→分裂→体積膨張)の全過程についてそれぞれ数理モデルを構築することに成功し、実験系の成果と合わせて原著論文として発表することができた。これにより生命の本質的な特徴である自己生産が、単純な分子系からいかにして出現し得るのか、その物理的なコンセプトを新たに提示することができた。こうした成果を半年間で達成することで、残り1年の研究期間で十分な検討を踏まえながら今度は自己生産系の進化を記述する数理モデルにも着手することができる。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の半年間で当初の計画以上の進展が見られたため、最終年度である次年度1年間では従来の計画通りの研究内容遂行に加えて、自己生産系の進化としてさらに研究を展開していく。具体的には、まず従来の自己生産系の情報高分子ポリアニリンに加え、本課題で新たに見出した高分子ポリピロールについて両者が単独でベシクル膜上に存在する場合、また両者が共重合体としてベシクル膜上に存在する場合で自己生産速度(=膜成長速度)がどう変化するのかを定量的に測定する。次に、こうした自己生産速度の変化をベシクル構成膜分子を他のいくつかの膜分子に変化させた場合についても測定する。これにより、当初の研究目的通り、どの情報高分子とどの膜分子の場合で自己生産速度が最大となるのかを探索し、代表者の自己生産系「ミニマルセル」の進化の地図「適応度地形」を作成する。最後に、本研究の当初の計画ではあくまで高分子と膜分子の組み合わせによる自己生産速度を網羅的に測定する所で終了し、実際の実験系で異なる種類のミニマルセルを共存させ競争させる予定はなかった。しかし想定以上の進展により、次年度はこの課題にも取り組む。本研究では動的光散乱法により100 nm程度の多数のベシクルのサイズ変化を統計的に測定する手法を中心に取ってきたが、この最後の課題に関しては10 um程度のごく少数のベシクルを光学顕微鏡により観察する手法をとる予定である。そして異なる高分子・膜分子組成を持つベシクルが外部溶液中の膜分子のリソースを取り合い、異なる速度で自己生産し、より早く増殖する種類(=種)が繁栄するという実験系を構築する。これにより、実際の生物系で見られる進化の様子を単純な人工系で再現することに挑む。
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