研究課題/領域番号 |
22K20359
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0202:物性物理学、プラズマ学、原子力工学、地球資源工学、エネルギー学およびその関連分野
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
洞口 泰輔 慶應義塾大学, 理工学研究科(矢上), 特任助教 (10964744)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | スピントロニクス / スピン渦度結合 / スピントルク / 磁化ダイナミクス / スピン流 |
研究開始時の研究の概要 |
電子のスピン角運動量の流れであるスピン流は、次世代電子デバイスの基本要素として盛んに研究されている。従来、スピン流生成にはスピン軌道相互作用(SOI)の強い白金などの希少重金属が不可欠であった。しかし近年、表面自然酸化銅での巨大スピン流生成が発見され、電気伝導度のナノスケール勾配に由来する電流渦の巨視的角運動量と電子スピンの結合(スピン渦度結合)がSOIに頼らないスピン流生成の新奇原理として注目されている。本研究では、電気伝導度勾配を生み出すSi/Al傾斜材料の作製、成膜・熱処理条件による傾斜制御とスピン流生成特性変化の定量化を行い、スピン渦度結合の物理の解明を目指す。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は電気伝導度勾配を生み出すSi-Al傾斜材料の作製、成膜・熱処理条件による傾斜制御とスピン流生成特性変化の定量化を通したスピン渦度結合の物理の解明である。 本年度はSi-Al傾斜材料/強磁性体薄膜を数種類の成膜条件で作製し、スピン流生成効率を定量評価した。スパッタ圧力、成膜速度によってスピントルク効率が異なることを発見し、最大のスピントルク効率を示す条件の試料についてST-FMR法とダンピング変調法の2種類の手法で評価した。我々はどちらの手法においてもSi-Al傾斜導入によってスピントルク効率が増大する結果および、傾斜幅が小さいほどトルク効率が大きいという傾向を観測した。これにより、組成傾斜とスピン流生成の相関を強く示唆する証左を得たと言える。また、本年度は当初の予定を早めSiAl傾斜材料に対して熱処理を加える実験も遂行した。Si-Al傾斜材料/NiCu膜を成膜後に真空中(<10^-4 Pa)にて150、250、350℃の各温度で30分熱処理を加えた後、微細加工を施しST-FMR測定を行った。その結果250℃の熱処理後の試料ではNiCuの飽和磁化が半減、300℃の熱処理では強磁性共鳴信号が全く見えないという結果となった。これは熱処理によってAl/NiCu界面での原子混合が生じ、NiCuの磁化が失われたことが原因と考えられる。このAl/NiCu界面拡散は本研究の目的であるSi/Al界面の熱処理制御とその評価の妨げになる問題である。これはプロセスの改善(成膜中アニール)、Al/NiCu界面へのバリア材料導入などの検討を行い来年度計画の「熱処理条件による傾斜構造制御」を遂行する必要があることが明らかとなった点で重要な知見である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は当初の計画通り「成膜条件によるSi/Al傾斜界面制御」を行った。複数のスパッタ圧力、成膜速度下においてSi-Al傾斜材料/強磁性体薄膜を作製し、それぞれの試料に対してST-FMR法によるスピントルク効率評価を行うことで、大きなスピントルク効率を示す成膜条件を明らかにした。また、新たに購入したナノボルトメーターと既存のプローバーシステムやロックインアンプと組み合わせたダンピング変調測定の実験系を立ち上げ、スピントルク効率評価の精度を向上させると同時に異なる手法でのトルク効率検証も可能にした。これは、異なる手法でスピントルク効率の組成傾斜幅依存性の一致を確認する重要な検証実験につながった。また、当初の予定を早め、SiAl傾斜材料に対して熱処理を加える実験を行った。その結果Al/NiCu界面原子拡散に起因するNiCuの磁化低下・消失によりST-FMR法における信号強度の低下・消失が起きるため、スピントルク効率評価が困難となることが明らかとなった。この問題点の改善策としてプロセスの改善(磁性体成膜前の成膜中熱処理)、Al/NiCu界面へのバリア材料導入などを検討している。これは来年度計画の「熱処理条件による傾斜構造制御」を遂行するにあたって重要な知見である。以上のように当初の計画に加え次年度の計画に向けた予備実験を遂行し改善点を明らかにしたという点で当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は当初の予定通り「熱処理条件による傾斜構造制御」を遂行する。当初計画では成膜後の熱処理条件(温度・時間制御)による傾斜構造の変調を行う予定であったが、本年度に前倒して行った「SiAl傾斜材料に対する熱処理実験」において明らかとなったAl/NiCu界面原子拡散に起因するNiCuの磁化低下・消失の問題点を改善するため、成膜後の熱処理ではなく成膜中およびSi/Al成膜後にスパッタチャンバー中での熱処理を試みる。また、Al/NiCu界面の拡散を防ぐバリア材料の検討も進める。熱処理温度および時間の異なる複数試料に対してST-FMR法およびダンピング変調測定の2種類の手法を用いてスピントルク効率を評価し、スピン流生成に最適なSi/Al界面の傾斜構造を明らかにする。これにより本研究の目的である再現性の良い組成傾斜の実現および電流渦によるスピン流生成に最適な傾斜構造探索を行い、半導体/金属傾斜材料を用いたスピン流生成とその起源解明に向けた知見を得る。
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