研究課題
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現在の火星は乾燥した惑星であるが、過去には液体の水を有していた。火星がどのようにして水を喪失したかを知る上で、火星大気の散逸過程を復元することは重要である。日本の探査計画MMXにおいてサンプルを持ち帰る予定である火星衛星フォボスには現在も散逸を続ける火星大気由来の酸素プラズマが降り注いでおり、もし酸素プラズマの照射が物質に記録されていれば、火星大気散逸過程を復元できる可能性がある。本研究では酸素プラズマによる固体惑星試料の宇宙風化実験を行うことで、酸素プラズマが固体惑星試料に与える影響および基礎的な過程を明らかにし、MMX探査機のデータ解釈に必要な知見を与える。
本研究では、酸素プラズマによる固体惑星試料の宇宙風化実験を行うことで、酸素イオンが固体惑星試料に与える影響及びその素過程を明らかにすることを目的としている。2026年打ち上げ予定の日本の火星衛星探査ミッション(MMX)がサンプルリターンを計画している火星の衛星フォボスでは、火星から流出する大気により今も酸素イオンが降り注いでおり、過去の火星大気の流出過程が記録されている可能性がある。そのため、本研究の結果は、日本のMMXミッションにおいて取得されるデータの解釈に必要な基礎的な知見を与えると共に、火星がいかにして大気を喪失したかを理解する手がかりとなる。当該年度は、昨年度に完成した実験装置を用いて、固体惑星試料に対する酸素プラズマ照射実験を行った。実験に使用した鉱物試料の反射スペクトルを実験前後で比較した結果、短波長の反射率が上昇する一方で長波長の反射率は低下する、青化という傾向が見られた。これはフォボス表面の反射スペクトルにおいて火星に面している半球で観察されている特徴と一致しており、フォボスの反射スペクトルの多様性において火星からの流出大気由来の酸素イオンによる宇宙風化反応が寄与している可能性を示唆する。2024年度は、フォボスの表面更新時間に相当する、より長い照射時間の実験を実施するとともに、照射前後における鉱物試料の表面化学組成分析を行い、酸素イオンによる宇宙風化反応の素過程の解明を進める。
2: おおむね順調に進展している
2023年度の目標であった、模擬フォボス試料に対する酸素プラズマ照射による宇宙風化実験および実験前後における反射スペクトルの計測は完了したため、本研究はおおむね順調に発展している。国際学会発表を通じて海外の研究者と議論した結果、海外の研究チームが作成した模擬フォボス試料についても実験を行えることとなり、本研究の計画時は想定していなかった実験を追加で実施する。
計画当初の予定に加えて、海外の研究チームから提供された模擬フォボス試料についても酸素プラズマ照射実験を行う。また、本年度より異動した研究機関の共同設備を利用し、鉱物試料の酸素プラズマ照射前後における表面化学組成分析を行い、酸素イオンによる宇宙風化反応の素過程の解明を進める。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件)
Planetary and Space Science
巻: 240 ページ: 105835-105835
10.1016/j.pss.2023.105835
JAXA Research and Development Report
巻: JAXA-RR-23-006E
https://jaxa.repo.nii.ac.jp/records/2000252