研究課題/領域番号 |
22K20388
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0204:天文学、地球惑星科学およびその関連分野
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研究機関 | 国立研究開発法人防災科学技術研究所 |
研究代表者 |
山谷 里奈 国立研究開発法人防災科学技術研究所, 地震津波火山ネットワークセンター, 契約研究員 (90964833)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 海溝型地震 / 海底観測網 / S-net / セントロイド・モーメントテンソル解 |
研究開始時の研究の概要 |
地震発生のポテンシャルを評価するためには、震源域の応力蓄積過程、すなわち応力場の時空間変化の高解像度な把握が必要である。本研究では東北沖を対象とし、2017年に敷設された定常海底観測網であるS-netから得られたデータを波形解析することで、マグニチュード2.5以上の地震のセントロイド・モーメントテンソル解を網羅的・正確・高精度に求める。これを基に応力場の時空間変化を推定し、海溝型大規模地震の発生と比較することで、地震発生前における応力場変化を評価する。
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研究実績の概要 |
地震発生のポテンシャルを評価するためには、震源域の応力蓄積過程、すなわち応力場の時空間変化の高解像度な把握が必要である。しかし、海溝型大規模地震が発生する海域において、これまで応力場推定に用いられてきたセントロイド・モーメントテンソル解(震源位置・断層の面と運動方向・規模を示す)カタログは、少数で不正確かつ低精度である。この原因は、震源から遠い陸域観測網と、厚い海洋堆積層や沈み込んだ海洋プレートに伴う不均質性を無視した簡易な地下構造モデルの使用にある。従って、海域で発生する地震のセントロイド・モーメントテンソル解を高精度に推定するためには、3次元地下構造モデルの使用と海底地震計から得られた波形記録の活用が不可欠である。そこで、本年度は、東北沖で発生したマグニチュード5クラス以上の地震を対象とし、2017年に敷設された定常海底観測網であるS-netから得られたデータを波形解析することで、対象地震の高精度なセントロイド・モーメントテンソル解を推定した。推定に使用するグリーン関数の計算には、防災科学技術研究所の大型計算機を利用し、3次元地下構造モデルを用いた地震波伝播シミュレーションを行った。S-netから得られた波形の活用により、従来よりも高精度なセントロイド・モーメントテンソル解を推定できた。得られたセントロイド・モーメントテンソル解からは、ほとんどの低角逆断層型地震の発生深さ及び傾斜角がプレート境界モデルとよく一致しており、プレート境界型地震と分類できることが示された。また、アウターライズ域で発生した地震については、正断層型のメカニズムを持ち、沈み込む海洋プレートが曲がることに伴った引張応力場を反映していると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
セントロイド・モーメントテンソル解の推定に必要なグリーン関数の計算は、防災科学技術研究所の大型計算機を利用して完了した。このグリーン関数及び定常海底観測網であるS-netを用いたセントロイド・モーメントテンソル解の推定は、2017年4月1日から2021年3月31日までに東北沖で発生したモーメントマグニチュード5.3から7.0の71個の地震に対して行った。得られたセントロイド・モーメントテンソル解を、上記のグリーン関数及び陸域観測網であるF-netを用いた推定結果と比較することで、S-netを用いた場合に高精度なセントロイド・モーメントテンソル解が得られることが明らかになった。一方で、得られた最適解は調和的であり、3次元地下構造モデルを用いることで、S-netが敷設された2017年よりも前に遡って正確なセントロイド・モーメントテンソル解が得られる可能性が示された。また、陸域観測網及び簡易な地下構造モデルを使用して推定された従来のセントロイド・モーメントテンソル解カタログと比較することで、観測網のカバレッジが低い場合には、得られるセントロイド・モーメントテンソル解の深さに偏りが発生することがわかった。これは特にアウターライズ域で発生した地震について顕著であった。さらに、海域で発生した地震のセントロイド・モーメントテンソル解推定において、海水層を考慮した3次元地下構造モデルを用いた地震波伝播シミュレーションにより、海水層に大きな感度を持つ後続のレイリー波を使用することで、従来は決定精度の低かったパラメータを高精度に推定できることが判明した。上記の結果について、国内学会や国際学会で発表を行った。また、S-netを使用したセントロイド・モーメントテンソル解推定について、国際誌に投稿準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に得られたS-netを使用したセントロイド・モーメントテンソル解推定についての研究成果を、国際誌に投稿する。また、本年度の研究では、海域で発生した地震のセントロイド・モーメントテンソル解推定において、海水層を考慮した3次元地下構造モデルを用いた地震波伝播シミュレーションにより得られたグリーン関数を使用し、海水層に大きな感度を持つ後続のレイリー波をデータとして用いることで、従来は決定精度の低かった地震の発生深さや断層の傾斜角を高精度に推定できることが判明した。これらのパラメータは、津波発生予測等の観点で重要である。したがって、今後はこれらの結果に基づき、地震波伝播シミュレーションを用いたさらなる確認作業を行うとともに、この成果を国際誌に投稿する予定である。さらに、より小規模の地震を対象とするために、S-netから得られた周期0.6から2.5秒の短周期波形の解析に取り組むこととする。まずは福島沖を対象として、より細かいグリッド間隔のグリーン関数を計算する予定である。グリーン関数の計算には、防災科学技術研究所の大型計算機を利用し、3次元地下構造モデルを用いた地震波伝播シミュレーションを実施する。得られたグリーン関数を使用して、福島沖で発生したモーメントマグニチュード2.5から4.5の地震のセントロイド・モーメントテンソル解推定を行い、地震活動の特徴を把握する。さらに、得られたセントロイド・モーメントテンソル解に対して応力テンソル解析を行うことで、マグニチュード6.5以上の大規模地震の発生前後での応力場変化を推定する。
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