研究課題/領域番号 |
22K20442
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0303:土木工学、社会システム工学、安全工学、防災工学およびその関連分野
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
大石 若菜 東北大学, 工学研究科, 助教 (90965849)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | サニテーション / 生態系 |
研究開始時の研究の概要 |
サニテーションシステムは、公衆衛生、環境保全、資源循環に寄与するインフラである。システム全体の持続可能性に関する何らかの総合的な指標を満たすように、システムを最適設計すべきであるが、「ヒトの健康」と「生態系健全度」への影響を評価し、指標化してシステム全体の評価に組み込むための枠組みは開発途上にある。 本研究は、下水処理水および汚泥堆肥が生態系に与える正負の影響を指標化し、モデル化するものである。さらに、ヒトの健康の評価指標である障害調整生存年との関係を定式化し、得られた最適解に基づき、ヒトの健康と生態系健全度を両立させるためのリスク管理方法や資源回収方法の開発に繋げる。
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研究実績の概要 |
サニテーションシステムの構築において、「ヒトの健康」及び「生態系健全度」をシステム全体の持続可能性評価に組み込む必要がある。しかし、既存の評価手法であるライフサイクルアセスメント(LCA)では、サニテーションシステムが重要な役割を担う水系感染症のリスク低減効果や生物多様性への寄与が評価の対象に含まれていない。本研究では、サニテーションシステムがヒトの健康及び生態系健全度にもたらす正負の影響を指標化し、モデル化することにより両方を達成可能なシステムを設計するための枠組みの構築を試みた。 水系感染症の疾病負荷を定式化するための第一段階として、資源回収型のサニテーションシステムにおける水系感染症リスク低減効果に関する文献調査を実施した。分散型サニテーションシステムに適用される処理プロセスを特定し、各々の処理プロセスについて、水系感染症の原因となる病原体の不活化効率を調査した。論文から抽出した処理条件に関するプロセスデータ及び対応する病原体対数不活化率のデータに回帰木モデルを適用することで、病原体を目標濃度まで不活化するために必要な処理条件を推定した。また、ヒト健康の達成に最適な処理条件では、生態系への影響や資源回収率の低下が懸念される処理プロセスを特定した。以上の成果を国際学術誌で発表した。 サニテーションシステムがヒトの健康にもたらす価値のひとつとして、下水中病原体監視による感染症蔓延の防止に着目した。し尿の発生源付近で試料を採取することによる早期検知の可能性を検証した結果、病原体が検出されるタイミングは下水処理場と変わらないものの、し尿の発生源付近では下水処理場よりも高濃度で検出されることが明らかになった。以上の成果を国際学会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、サニテーションシステムの持続可能性評価にヒトの健康及び生態系健全度を組み込むための環境影響および多面的価値のモデル化を目的としており、研究1年度目においては、水系感染症疾病負荷モデルの構築を行った。文献から抽出した病原体不活化率、し尿の性状、及び処理時間のデータに回帰木モデルを適用することで、病原体不活化率を代替しうる迅速に測定可能な監視パラメータを特定し、病原体の目標不活化率を達成するための処理条件を推定した。また、ヒト健康の達成に最適な処理条件では、生態系への影響や資源回収率の低下が懸念される処理プロセスを特定した。以上の成果を国際学術誌(Environmental Science: Water Research & Technology)で発表した。 下水中病原体監視による感染症蔓延の防止効果を評価するための事前検討を行った。A市の下水管路ネットワークの複数の中継地点における病原体濃度を7か月間に渡り監視し、し尿の発生源付近で試料を採取することによる早期検知の可能性を検証した。その結果、病原体が検出されるタイミングは下水処理場と変わらないものの、し尿の発生源付近では下水処理場よりも高濃度で検出されることが明らかになった。以上の成果を国際学会(CESE-2022)で発表した。 水系感染症を引き起こすウイルスの減衰を定式化するために、リバースジェネティクスにより作出したマウスノロウイルスのミュータントの消毒感受性が低いことを確認した。感受性の多様性を安全率としてモデルに組み込むために、原因を特定する実験に着手した。 本研究の重要な研究課題は、生態系への影響評価及び、生態系サービスへの換算モデルの構築であるが、生態系影響評価に関する研究に着手できていない状況である。これらの結果から、概ね順調に研究が進展しているが、一部に遅れがあり今後努力が必要であるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、下水処理水の放流による生態系影響に関する既往の研究のレビューとメタ分析を実施し、放流水質と藻類生長阻害への影響を定式化する予定である。ここまでに得られた結果をもとにして、生態系への正負の影響を生態系サービスに換算するためのモデルを構築する。さらに、病原体不活化率と下水の消毒強度の関係を表す病原体不活化モデルを用いて病原体濃度を推定し、病原体濃度から水系感染症の障害調整生存年を推定する関数を作成する。残留消毒剤によって失われる生態系サービスを表す関数と統合し、最適化問題として解くことで、最適な消毒剤添加率を推定する。
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