研究課題/領域番号 |
22K20491
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0401:材料工学、化学工学およびその関連分野
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
北川 裕貴 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 研究員 (00964892)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | アップコンバージョン発光 / 蛍光体 / エネルギー移動 / 近赤外光 / 配位子場エンジニアリング / 第一原理計算 |
研究開始時の研究の概要 |
広く普及している結晶シリコン太陽電池は,バンドギャップ以下のエネルギーを持つ近赤外光(>1150 nm)を吸収できない。本研究では,近赤外フォトンアップコンバージョン機構を用いた太陽光発電の低透過損失化を目指して,広帯域吸収バンドを持つ高効率Er3+-Ni2+共添加ダブルペロブスカイト蛍光体を開発する。ホスト結晶のカチオン・アニオン置換に起因する構造的・電子状態的な配位子場の変動に伴う発光中心Er3+およびエネルギードナーNi2+の光物性を分光測定によって評価し,局所配位環境とアップコンバージョン特性の相関を明らかにする。
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研究実績の概要 |
本研究では,結晶シリコンが吸収できない近赤外光(> 1150nm)の有効利用によって太陽光発電を高効率化させることを目指して,Ni2+-Er3+イオン間エネルギー移動を利用した高効率近赤外アップコンバージョン発光を実現する光機能材料を,カチオン・アニオン置換に基づく配位子エンジニアリングの観点から創製することを目的としている。このアップコンバージョン発光プロセスは非常に複雑であるため,1. 近赤外光吸収過程(Ni2+),2. アップコンバージョン発光過程(Er3+),3. ドナー・アクセプター間エネルギー過程(Ni2+-Er3+) の3段階に分けて,段階的にそれぞれの蛍光体材料の光物性を評価して研究を進めている。2022年度は,第一段階目の過程であるNi2+の近赤外吸収過程に焦点を当て,Ni2+添加ダブルペロブスカイト蛍光体を固相反応法によって合成し,その光物性および局所構造を分光実験と理論計算の両方の観点から評価した。合成した蛍光体は太陽光スペクトルと合致する1150~1400 nmの近赤外域に,Ni2+のd-d遷移に帰属される広帯域吸収を示した。化合物組成中のアルカリ土類金属組成比を変えることにより,吸収波長を最大40 nmシフトさせて制御可能であることを示した。第一原理量子化学電子状態計算によって光吸収特性に影響を与えるNi2+のエネルギー準位をシミュレーションしたところ,Ni2+周りの結合長の減少と局所対称性がそれぞれ駆動力となって励起準位の高エネルギーシフトが起こることが明らかとなった。本成果は,研究計画における近赤外アップコンバージョンの第2,3段階目の過程の高効率化に向けた材料設計指針となるのと同時に,近赤外活性中心イオンとして有望なNi2+を添加した蛍光体の,非経験的なエネルギー準位推定に基づく材料探索の実現可能性を示唆するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は,エネルギー移動アップコンバージョンの第一段階である近赤外吸収過程に着目して,Ni2+添加ダブルペロブスカイト蛍光体の光物性評価を行った。一連の固溶体化合物を合成し,粉末X線回折による結晶構造解析,および結晶母体の化合物組成の違いによる近赤外光物性への影響の評価を行った。研究提案時の想定よりも近赤外吸収波長を制御可能な波長域は小さく,実用材料としての発展が見込まれるような物性ではなかった。しかし,理論計算的アプローチによる励起状態のシミュレーションは測定値に定性的に一致する結果を与えており,今後の非経験的な遷移金属添加蛍光体の探索への可能性を示唆している。合成したNi2+添加ダブルペロブスカイト蛍光体が必ずしも太陽光発電高効率化に資する材料となりえるわけではないが,効率的に他の候補材料を探索できるという観点から,本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度には,Er3+添加またはNi2+-Er3+共添加ダブルペロブスカイト蛍光体を合成し,エネルギー移動効率およびアップコンバージョン量子効率を評価する。合成において,Er3+イオンの添加量はアップコンバージョン特性を左右する重要な要因となるが,半導体レーザーと積分球を組み合わせた独自のアップコンバージョン発光効率測定系を構築完了しており,それによって最も高い量子効率を与える化合物組成を決定する。Ni2+-Er3+イオン間の相互作用によるエネルギー移動効率は,マイクロ~ミリ秒オーダーの時間分解分光測定によって得られる発光減衰曲線の指数関数フィッティングによる解析によって算出する。これらの光学的特性に関して最も高い効率値を示す材料を,化合物組成を調節することによる配位子エンジニアリングによって見出すことを最終目標とする。同時に,より効率的に1150 nm以上の波長域の太陽光を有効活用できることが見込まれる,近赤外域に広帯域吸収を持つ蛍光体材料を,非経験的量子化学計算によって探索する。計算に必要な結晶構造データをデータベースから取り込み,構造最適化後の結晶母体中にNi2+を配置した際の最低励起準位のエネルギーを算出・比較することで,より優れた近赤外エネルギー移動過程を実現するポテンシャルを持つ化合物を見出す。合成検討の前にカチオン・アニオン置換した構造における光物性をシミュレーションし,従来の蛍光体材料探索よりもより効率的な手法で開発を進める。
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