研究課題/領域番号 |
22K20597
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0603:森林圏科学、水圏応用科学およびその関連分野
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研究機関 | 国立研究開発法人水産研究・教育機構 |
研究代表者 |
大戸 夢木 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水産大学校, 助教 (30951488)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 通し回遊 / 両側回遊 / 繁殖生態 / 繁殖生理 / 塩分適応 / 汽水域 / ハゼ科 / 生理的制約 / 産卵回遊 / 両側回遊性 |
研究開始時の研究の概要 |
海と川の接点である汽水域には人間活動の影響が集中しやすく, そこを生理的な順応や初期成長の場として利用する通し回遊種に負の影響を与えている. 近年, 海を起源とするハゼ科魚類において, 繁殖時に汽水域に集まる通し回遊種が複数あることが分かってきた. これは, 汽水域が通し回遊魚の繁殖場所としても重要であることを示唆している. そこで本研究は, 通し回遊性ハゼ類が繁殖の際, 汽水域にどれほど依存するのか, またなぜ汽水域で産卵を行う必要があるかを解明する.
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研究実績の概要 |
海洋と河川を行き来する通し回遊種は, その特徴的な生活史が生態, 進化学的に魅力的であるだけでなく, 水産上重要な場合が多く, 水産資源学的な観点からも回遊行動に関する生態, 生理学的知見が重ねられてきた. 一方で, 通し回遊種は一生のうちに様々な水圏環境を経験・利用するため, 地球規模から地域レベルまで, あらゆるスケールでの環境改変に対して脆弱であるという側面も併せ持つ. 実際に, 絶滅危惧種に指定されている通し回遊種は少なくない. 一般に, 海と川の接点である汽水域は, 多くの通し回遊種にとって, 生理的な順応や初期成長の場所として重要な環境である. しかし, 汽水域は市街地の広がる平野部の下端に位置することが多いことから, 水質汚染, コンクリート護岸化などの人間活動の影響にさらされやすく, 多くの水生生物が負の影響を被っている. 近年, 通し回遊性ハゼ科魚類において, 汽水域に集まって繁殖を行う種が複数あることが分かってきた. これは, 通し回遊魚に対し, 汽水域が繁殖場所としても重要な機能を果たしていることを示唆している. しかし, これらの種において, 汽水域での産卵が繁殖生理の制約に起因するのかということは検証されていない. そこで本研究は, 通し回遊性ハゼ類がなぜ汽水域で産卵を行う必要があるかを, 繁殖生理に着目して明らかにしている. 得られる知見は, 汽水域におけるハビタットの質が, 個体群維持に直接的に影響する繁殖成功度をどれほど左右しうるかということに対し, 洞察をもたらすと期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
第1年度目の目標の1つは, 汽水域で産卵を行う両側回遊性ハゼ科魚類の代表であるゴクラクハゼは, 産卵期直前に淡水域から汽水域に蝟集するという予測を検証することであった. この目標に関し, 当初予定していた研究の一つであるゴクラクハゼの回遊履歴の推定を行うことができた. オス15個体, メス10個体, 合計25個体の耳石に蓄積されたSr/Ca比を分析したところ, 本種成魚の多くは, 雌雄に関わらず繁殖期の直前に淡水域から汽水域へ, 繁殖のために降河することがわかった. また, 下見調査により, 第2年度目に行う本種の調査河川の候補を絞ることができた. さらに, 汽水域における個体密度が著しく低い晩秋から春にかけては生殖腺が発達せず, 汽水域での個体密度が増加する夏から初秋に繁殖期が限られるという予測の実証がなされつつある. 一方, 2つ目の対象種であるスミウキゴリについては, 第1年度目に産卵調査および繁殖生理に関する実験を実施する予定であったが, 本種の野外での個体密度が想定よりも低かったことや, 調査人員の確保ができなかったことから, 十分なサンプルを得られず, 実施することができなかった. 一部の河川からは, 汽水域で採集された成熟親魚のサンプルが得られたため, 今後回遊履歴を推定し, 淡水域から汽水域への産卵回遊が普遍的に行われているのかを明らかにする予定である. 以上から, 対象種のうち1種の調査・実験の大部分を今年度実施できなかったため, 進捗度はやや遅れていると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
第2年度目であり, 最終年度である令和5年度は, 対象種を個体密度が高く, サンプリングの容易なゴクラクハゼに絞り, 本種の繁殖場所としての汽水環境の重要度を, 河川間での汽水域の特性の違いを利用して明らかにする. 具体的には, 汽水域の環境収容力 (面積) の大きい河川においては, 多くの個体が汽水域に蝟集して多くの卵を産む一方, 汽水域の狭い河川では, 一部の個体のみが汽水域で産卵し, 残りは淡水域においてより少数の卵を産むにとどまるかを確かめる. 室内条件下においても, 精子の運動性や受精率といった繁殖生理のパフォーマンスが淡水より汽水環境において良好であるかを確かめる. さらに, 成魚が繁殖期以外に利用する環境の塩分が, そこで製造される配偶子の塩分順応能に影響するかを明らかにする. すなわち, 親魚が淡水域で成長・成熟を終えたのちに汽水域での産卵へのぞむ場合と, 産卵まで汽水域に残留していた場合との間で, 汽水環境における繁殖生理パフォーマンスを比較する. 野外での直接的な観測は困難なため, 室内実験により, 一定期間淡水または汽水環境で飼育した後に, 汽水中での精子の運動性や卵巣の発達, 受精率を明らかにする. これらにより, 繁殖場所のみならず, 成魚の生息場所としての汽水域の質が, 本種の繁殖成功度に影響するかということの解明に繋がると考えている.
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