研究課題/領域番号 |
22K20660
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0702:細胞レベルから個体レベルの生物学およびその関連分野
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研究機関 | 国立研究開発法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
廣瀬 健太朗 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究所, 上級研究員 (70958355)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | ユビキノン / 心不全 / マウス |
研究開始時の研究の概要 |
ユビキノンは、心不全に対して治療効果が期待できる脂溶性分子であるが、実際には高い有効性を示さない。その原因の一つとして、ユビキノン投与後に心臓組織にユビキノンが効率的に吸収されないことが挙げられる。申請者は、機能未知のユビキノン結合タンパク質が、心臓組織のユビキノン量を負に制御することを見出している。そこで本研究の目的は、ユビキノン結合タンパク質を応用した心不全治療効果の検証と、ユビキノン結合タンパク質の機能解明である。
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研究実績の概要 |
脂溶性分子ユビキノン(UQ)は、ミトコンドリアにおける電子の運搬担体としてATP産生に必須であり、更に抗酸化物質として酸化ストレスからの細胞保護を行う。しかし、UQは生命に必須の機能を有するにも関わらず、心臓における存在量は年齢や心不全進行と共に大きく低下する。我々は機能未知のUQ結合タンパク質が、UQの組織存在量の制御に重要である可能性を明らかにしていた。このUQ結合タンパク質の機能を解明・応用することで、心不全への治療効果をもたらす可能性がある。 研究実績として、我々の解析により、UQ結合タンパク質をコードする遺伝子のノックアウトマウスでは、心臓での還元型UQ量が有意に増加することを見出した。UQには酸化型と還元型が存在するが、還元型UQが酸化ストレスから細胞を保護する。更に、この還元型UQの増加は、ミトコンドリア内で特に顕著に生じていることが分かった。次に還元型UQ量が増加した原因を探索するため、ミトコンドリア電子伝達系におけるUQの還元・酸化活性を解析した。しかし、ノックアウトマウスで電子伝達系におけるUQの酸化・還元には変化がないことが分かった。今後、その他の還元型UQが増加する原因を追求する必要がある。また、このノックアウトマウスの心臓は軽度の心肥大を示すが、心エコーによって心機能を解析したところ、興味深いことに、心臓拍出量が有意に増加していた。つまり、このノックアウトマウスの心臓では、より高い心機能を有していることが示唆された。さらに、骨格筋においては持久力に必要となる遅筋が増加していることも分かった。UQの経口投与は運動パフォーマンスにポジティブに作用する可能性が示唆される。つまり、ノックアウトマウスにおいても同様に運動パフォーマンスの増進が生じている可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は大きく分けて2つある。「UQ結合タンパク質の機能解析」と「心不全治療効果の評価」である。両者の実験計画は順調に進行中である。 「UQ結合タンパク質の機能解析」に必須となる高速液体クロマトグラフィーによる酸化型・還元型UQの測定法を可能とする実験設備を整え、最適な条件を決定した。この手法を用いたノックアウトマウス心臓の解析の結果、ミトコンドリアの還元型UQ量を制御する重要な因子であることを明らかにした。過去に同様の表現型を示す変異体の報告はなく、この遺伝子は未知の機能を有することが予想できる。さらに、このUQ結合タンパク質の心臓での遺伝子発現は生後直後から開始するが、生後直後から生後14日目までのUQの還元型/酸化型比を解析したところ、生後直後では還元型の割合が非常に高いが、成長するにつれ減少することが分かった。つまり、このUQ結合タンパク質は生後に変化するUQ還元型/酸化型比を制御していると予測できる。次に還元型UQ量が増加した原因を探索するため、ミトコンドリア電子伝達系におけるUQの還元・酸化活性を解析した。しかし、ノックアウトマウスで電子伝達系におけるUQの酸化・還元には変化がないことが分かった。 「心不全治療効果の評価」に関して、まず心エコー検査によってノックアウトマウスにおける心機能を解析したところ、心拍出量が有意に増加していることから、心機能の増強が確認できた。そこで心不全への抵抗性が生じることを期待し、大動脈弓縮窄術による心不全を人為的に誘導した。しかしながら予想に反して、この心不全モデルに対しては抵抗性は確認できなかった。一方、骨格筋においてはミトコンドリアが豊富で持久力に必要とされる遅筋が増加していることも分かった。ノックアウトマウス骨格筋では高い持久力を示す可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究においても、当初に設定した2つの研究目的である「UQ結合タンパク質の機能解析」と「心不全治療効果の評価」を実施する予定である。 上記の進捗状況で示した通り、UQ結合タンパク質が還元型UQ量を制御する重要な因子であることを明らかにしている。しかしながら、未だに詳細な制御メカニズムに関しては不明である。今後は生化学的・分子生物学的アプローチにより詳細な解析によって、UQ結合タンパク質の機能を明らかにしたい。また、還元型UQがミトコンドリア内で顕著に蓄積していることによる、ミトコンドリアへの影響は未知である。そこで、ミトコンドリアの呼吸能や形態変化なども解析することで、より詳細なUQ結合タンパク質の機能を明らかにしたい。 「心不全治療効果の評価」に関して、大動脈弓縮窄術による心不全モデルに対しては明らかな抵抗性は確認できなかった。しかしノックアウトマウス心臓で増加していた還元型UQは、抗酸化物質として酸化ストレスに対して抵抗性を示すことが知られる。そこで、酸化ストレスが原因で心不全を引き起こすDoxorubicin誘導心不全モデルに対する抵抗性を検証する。更に、ノックアウトマウスにおいて心拍出量の増加および骨格筋の遅筋が増加する表現型が確認できている。つまり、ノックアウトマウスの運動パフォーマンスが向上している可能性が挙げられる。そこで、トレッドミルを用いた運動能力の評価を実施することを計画している。実際に運動能力の増進が確認できる場合、遺伝子欠損がこの表現型を引き起こす原因に関しても調査する。
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