研究課題/領域番号 |
22K20696
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0704:神経科学、ブレインサイエンスおよびその関連分野
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
恩田 亜沙子 東京慈恵会医科大学, 医学部, 助教 (20961890)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 筋萎縮性側索硬化症 / TDP-43 / iPS細胞 / 遺伝子編集 / 酸化ストレス |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は,ALSの病態解明のため,TDP-43変異を導入したヒトiPS細胞から誘導したニューロンにおいてALSとの関連が想定される因子(ニューロンの形態,TDP-43の局在変化や封入体形成,細胞死,TDP-43のスプライシング機能など)を解析し,TDP-43変異以外の背景遺伝子が同一である健常ヒトiPS細胞由来ニューロンとの比較から,TDP-43変異のみに起因する病態を明らかにすることを目的とする.
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研究実績の概要 |
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は運動ニューロンが障害される予後不良な疾患である.ALSの発症機序には諸説あるが,申請者はALSの多くで共通してみられる神経細胞内封入体の構成タンパクであるTDP-43に着目した.本研究は,ヒトの細胞を用いてALSにおけるTDP-43変異の影響を解析するため,まず健常人由来ヒトiPS細胞にTDP-43変異を導入し,次にこの細胞株から分化誘導したニューロンで,ALSとの関連が想定される因子(ニューロンの形態,TDP-43の局在変化や封入体形成,細胞死,TDP-43のスプライシング機能など)を解析し,TDP-43に起因するALS発症機序を明らかにすることを目的とする. まず, 健常ヒトiPS細胞に①健常配列②TDP-43変異配列(A382T)をCRISPR CAS9遺伝子編集技術により導入し,①野生型細胞株②A382T変異細胞株を樹立した.遺伝子編集をしていないコントロール細胞株,野生型細胞株,A382T変異細胞株から運動,感覚ニューロンを分化誘導を行った.上記ニューロンの形態や機能評価を行ったが3群で差はみられなかった.これはALSが発症までに長い年月を要することを反映している可能性がある.in vitroで臨床経過を忠実に再現することは困難であるが,臨床に則したストレス負荷により細胞死を引き起こすモデルニューロンの作製が望まれる.今後酸化ストレス負荷によりニューロンの脆弱性に差がみられるか検証を行う.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
遺伝子未編集iPS細胞と遺伝子編集により樹立したiPS細胞(WT株,A382T株)の3ラインを用いて,運動神経,感覚神経へ分化誘導を行った.ALSに関連する形態や機能について解析したが,2か月間の培養では運動ニューロン,感覚ニューロンにおいてニューロンマーカー陽性率や細胞体,軸索,樹状突起などの形態に3群で差はみられなかった.また,ALS患者の病理組織でみられるTDP-43の局在変化や凝集体形成はみられなかった.過酸化水素による酸化ストレス負荷をかけると,疾患群感覚ニューロンで差はみられなかったが,疾患群運動ニューロンでストレス顆粒が形成され,最終的にアポトーシスが誘導されたことから,運動ニューロン特異的な脆弱性を示すことができた. また,過酸化水素負荷前後でTDP-43の選択的スプライシング標的であるPDP1, BCL2Lのスプライシングパターンを評価したが,ストレス負荷によるTDP-43の機能低下を示唆する所見を認めなかった.TDP-43のcryptic exonの標的であるATG4BやGPSM2,UNC13A,STMN2も同様に評価したが,TDP-43の機能低下を示すcryptic exonの出現を認めなかった. 臨床では剖検での評価となるため,ALS患者で起きている初期の変化を評価することは難しい.申請者らはストレス負荷により運動ニューロン特異的な脆弱性があることを示したが,TDP-43の機能低下はみられなかった.これはALSの初期の反応をみている可能性がある.
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今後の研究の推進方策 |
TDP-43遺伝子変異を導入したヒトiPS細胞から誘導した運動ニューロンにおいて過酸化水素だけでなく,グルタミン酸やヒ素による酸化ストレス負荷を行い,①ALSとの関連が想定される因子(ニューロンの形態,TDP-43の局在変化や封入体形成,細胞死,TDP-43のスプライシング機能など)を解析し,②形態や機能の差を認めたストレス負荷下のニューロンについて,遺伝子発現パターンの変化を同定し,③同定した遺伝子についてTDP-43との関係を検証することで,ALSの病態理解を深める.過酸化水素負荷ではさらに長時間,さらに高濃度の条件にすると健常群,疾患群に関わらず細胞死が誘導され,評価困難であった.過酸化水素以外の酸化ストレスを加えた実験によって,ALSにおける酸化ストレスの関与の普遍性を問う.
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