研究課題
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VRK1はヒトにおける脊髄性筋萎縮症や小頭症を呈する神経変性疾患の原因遺伝子の一つであり、VRK1遺伝子をノックダウンさせたマウスでは運動機能低下を認めることが報告されている。しかし、VRK1の中枢神経系における生理作用は未だ解明されておらず、神経変性疾患の病態分子機構に対してVRK1がどの様な役割を担うのかはほとんど知られていない。本研究ではVRK1遺伝子欠損ゼブラフィッシュを作製し行動生理学、分子生物学、形態学などの多角的な手法を駆使して解析することで、中枢神経系におけるVRK1の新たな生理機能の解明および、VRK1を介する神経変性疾患の病態分子機構の解明を目指す。
VRK1はセリン/スレオニン蛋白質キナーゼの一種であり、ヒトにおいて小頭症や運動機能障害を特徴とする神経変性疾患の原因遺伝子の一つであることが報告されている。また、VRK1を欠損したマウスでは運動機能の異常や、神経細胞の脳内分布に異常を認めることが報告されている。しかしながら、VRK1が関与する小頭症や運動機能障害がどのような分子メカニズムにより引き起こされるかについては未だ解明されていない。本研究ではVRK1 を欠損させたゼブラフィッシュ(VRK1KO)を作製し解析を行った結果、VRK1KOにおいて成長の遅延および小頭症を認め、哺乳類の大脳に該当する領域である前脳において運動神経を含む神経細胞増殖の減少を認めた。さらに、前脳領域における神経細胞の微細構造を確認するために電子顕微鏡を用いた観察を実施したところ、核膜形成異常およびヘテロクロマチンの増加を認めた。行動解析においては、不安様行動の減少および、自発行動量の減少を認め、運動機能に関連する神経伝達物質であるドパミンについて解析したところ、VRK1KOにおいて脳内のドパミン含量の低下を認めた。以上より、神経細胞の核膜形成異常およびヘテロクロマチンが増加することにより運動神経を含む神経細胞の増殖が減少し、神経細胞の減少を引き起こす。これにより自発行動量の減少および不安様行動の異常を認める可能性を示した。これらの結果から、小頭症や運動機能障害を特徴とする神経変性疾患におけるVRK1が寄与する病態基盤の一部を解明し、創薬に繋がる可能性のある知見を見出した。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (6件)
Biochemical and Biophysical Research Communications
巻: 675 ページ: 10-18
10.1016/j.bbrc.2023.07.005
Genes to Cells
巻: 27(4) 号: 4 ページ: 254-265
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