研究課題
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転移性乳癌は、年間数十万人もの患者が死亡している極めて悪質な疾患であり、その分子メカニズムの解明および治療法の確立が強く求められている。近年、二次組織に転移した乳癌細胞は、血管内皮細胞と近接して存在し、「血管性ニッチ」と呼ばれる細胞間クロストークを介してその場に定着・生存し、転移巣を形成することが明らかとなってきた。すなわち、血管性ニッチの機能因子は、まさに転移性乳癌の進行を抑制するための有用な薬剤標的となり得るが、その分子実体は未だ殆ど解明されていない。本研究では、乳癌の肺転移における血管性ニッチ機能因子を同定し、その機能解析を通して転移性乳癌の治療における効果的な薬剤標的を提案する。
これまでに、乳がん肺転移における肺血管性ニッチ候補因子として9因子を同定している。そのうち、本年度は分泌型蛋白質SERPINE1に着目して解析を行った。乳がん肺転移を有するマウスに抗がん剤パクリタキセルを投与した際、肺転移巣において顕著なアポトーシスが誘導される。しかし、肺血管内皮細胞の転移巣への侵入度に依存して、パクリタキセル誘導性アポトーシスは阻害された。このことは、肺転移巣において肺血管内皮細胞が乳がん細胞の抗がん剤抵抗性を誘導している可能性が考えられた。これまでに、乳がん肺転移における肺血管性ニッチ候補因子として9因子を同定している。既存データベースを用いた解析から、それらのうち特にSERPINE1が抗がん剤抵抗性に関与している可能性が考えられた。実際、リコンビナントSERPINE1を用いて乳がん細胞を刺激することで、パクリタキセルに対する抵抗性が向上した。このことから、乳がん肺転移が起こった際に、肺血管内皮細胞が活性化されてSERPINE1を分泌することで、転移乳がん細胞の抗がん剤抵抗性に寄与していると考えられる。さらに、転移巣において肺血管内皮細胞でSERPINE1が発現するメカニズムについても解析を進めた。転移巣では血管透過性が亢進することがこれまでに報告されている。また、転移肺より単離した肺血管内皮細胞の遺伝子発現解析から、細胞-細胞間接着が著しく低下していることが確認された。そこで、細胞-細胞間接着の低下によって活性化されるシグナル伝達分子であるYAP-TEADに着目したところ、TEADのノックダウンによって、SERPINE1の発現は抑制された。このことから、転移が引き起こされた際に、血管透過性が亢進し、それに伴って肺血管内皮細胞でYAP-TEADが活性化されることによってSERPINE1の発現が上昇することが示された。
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