研究課題/領域番号 |
22K20869
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0902:内科学一般およびその関連分野
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研究機関 | 藤田医科大学 |
研究代表者 |
村尾 直哉 藤田医科大学, 医学部, 助教 (70964675)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 膵β細胞 / 糖尿病 / 老化 / インスリン |
研究開始時の研究の概要 |
膵β細胞から分泌されるインスリンは、老化関連疾患である糖尿病の病態の根幹を成すのみならず、老化・寿命に影響を及ぼすことが知られている。したがってβ細胞機能と老化は密接に関連していると予想されるが、詳細は明らかでない。代表者らは老齢マウスを用いた予備検討から、「加齢に伴うβ細胞からのインスリン分泌の亢進が個体老化を促進している」と予想した。この仮説を検証するため、1)細胞内代謝によるβ細胞の加齢性変化の制御機構、ならびに2)β細胞の加齢性変化が個体老化に及ぼす影響を解明する。さらに、3)薬剤・食事によるβ細胞の加齢性変化の制御法を開発し、β細胞を標的とする抗老化医療を実現することを目標とする。
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研究実績の概要 |
糖尿病は代表的な老化関連疾患である。膵β細胞はインスリン分泌により全身の代謝を制御していることから、β細胞機能の加齢性変化は、個体老化や加齢に伴う糖尿病の発症と密接に関連していると予想される。本研究では、「β細胞機能の加齢性変化の分子機構を解明し、β細胞を標的とする抗老化医療を実現する」ことを目標とし、以下の3課題を設定した。 課題1)細胞内代謝によるβ細胞の加齢性変化の制御機構の解明:インスリン受容体阻害薬(S961)によってβ細胞老化が誘導されることが知られている。S961投与マウス膵島の解析を行い、β細胞の加齢性変化と同様の細胞内代謝変化が認められることを明らかにした。これはβ細胞老化の共通原理として重要であると考えられる。 課題2)β細胞の加齢性変化が個体老化に及ぼす影響の解明:高齢マウスβ細胞の主要な表現型として、グルコース応答性インスリン分泌(GIIS)の亢進が認められる。薬剤投与により任意の時期にβ細胞のGIISを抑制可能な組換えマウスMIP-Cre/ERT+/-; Kcnj11-fl/flを樹立した。本マウスは個体老化におけるGIISの意義の解明に有用である。 課題3)薬剤・食事によるβ細胞の加齢性変化の制御法の開発:β細胞の加齢性変化として、増殖刺激に対する反応性の低下が知られている。今回、S961誘導性のβ細胞増殖を促進する物質Xを見出した。S961投与β細胞は老化に類似した表現型を示すことから、物質Xは加齢に伴うβ細胞の増殖低下を回復させる可能性が示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
課題1)細胞内代謝によるβ細胞の加齢性変化の制御機構の解明:インスリン受容体阻害薬(S961)は、全身のインスリン抵抗性を誘導しβ細胞老化を促進することが報告されている。S961を投与した野生型マウスの膵島において、インスリン分泌測定およびメタボローム解析を行った。S961投与膵島においては、GIISの上昇、解糖系の亢進、NADの増加がいずれも認められた。これは代表者が報告した高齢マウス膵島の表現型と一致する。したがって、β細胞の加齢性変化とインスリン抵抗性によるβ細胞老化とは、共通した機序によることが示唆される。 課題2)β細胞の加齢性変化が個体老化に及ぼす影響の解明:代表者らは、高齢マウスβ細胞の主要な表現型としてグルコース応答性インスリン分泌(GIIS)の亢進を見出している。ATP感受性Kチャネル(KATPチャネル)はGIISに必須の分子であり、欠失するとGIISが抑制される。したがって、野生型マウスとβ細胞特異的KATPチャネル欠損マウスの個体老化を比較することにより、β細胞の加齢性変化が個体老化に及ぼす影響を評価できると期待される。MIP-Cre/ERT系統とKcnj11-flox系統の交配により、タモキシフェン投与によりKATPチャネルをβ細胞特異的にノックアウト可能なMIP-Cre/ERT+/-; Kcnj11-fl/fl系統を樹立した。 課題3)薬剤・食事によるβ細胞の加齢性変化の制御法の開発:インスリン抵抗性はβ細胞の増殖を誘導する。β細胞の加齢性変化として、このような増殖刺激に対する反応性の低下が知られている。今回、S961を投与した単離膵島および生体マウスを用いた検討により、S961誘導性のβ細胞増殖を促進する物質Xを見出した。S961投与β細胞は老化に類似した表現型を示す(課題1)ことから、物質Xは加齢に伴うβ細胞の増殖低下を回復させる可能性が示唆される。
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今後の研究の推進方策 |
課題1)細胞内代謝によるβ細胞の加齢性変化の制御機構の解明 加齢マウス膵島ならびにS961投与膵島の代謝特性について、とくにヌクレオチド代謝に注目して解析を進める。ヌクレオチド代謝の操作によってβ細胞の加齢性変化がどのように修飾されるかを検証する。 課題2)β細胞の加齢性変化が個体老化に及ぼす影響の解明 MIP-Cre/ERT+/-; Kcnj11-fl/fl系統を用いて、Kcnj11の急性ノックアウトが全身の糖代謝に及ぼす影響を明らかにする。さらに本系統の寿命解析に向けたマウスの飼養を開始する。 課題3)薬剤・食事によるβ細胞の加齢性変化の制御法の開発 2023年度の本研究課題において、低タンパク質・高炭水化物食(LP)が個体老化に抑制的な栄養介入として有望であるが、LPによる筋肉量低下が課題であることを報告した。本年度はLPと分岐鎖アミノ酸の同時投与により筋肉量低下を抑制できるかを検討する。さらに、この食餌介入がマウスの個体老化、寿命に及ぼす影響を検討する。
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