研究課題
研究活動スタート支援
本研究の目的は、消化管蠕動を制御するメカニズムを、TRPチャネル群を介した経路に着目して明らかにすること、および低温水や冷却した局注液を用い、安全に内視鏡治療を効率化できるか明らかにすることである。腸管蠕動はカハール介在細胞がペースメーカーとして働いており、一方申請者は低温水を消化管粘膜に散布することでTRPM8を介して消化管蠕動が抑制されるということを世界で初めて確認した。カハール介在細胞とTRPチャネルの関係は、大腸のカハール介在細胞やTRPM8に関しては報告が乏しく検討を要する。さらに低温という新たな蠕動抑制の手段が内視鏡治療という実臨床で有用であるか検討する。
皮膚が15℃の水の温度を感じる時と、ミントオイルの清涼感、これらを感じる時の神経の伝達路が同じであることが報告された(DE Clapham. Science, 2002)。また大腸内視鏡検査時、ミントオイルの主成分であるl-メントール製剤を腸内に散布することで腸管蠕動を抑制する可能性が報告されている(Inoue et al.Endoscopy. 2014, 46:196-202)。さらにラットとTRPM8欠損マウスの近位結腸の蠕動モデルを用いて、大腸へ5℃の水を投与することでTRPM8チャネルが活性化し大腸蠕動運動の減少につながることを示した(杉野ら. J Neurogastroenterol Motil. 2022, 28:693-705)。複数のTRPチャネルが関連すると考えられる消化管蠕動で低温によるTRPチャネルの活性化が消化管蠕動を制御するメカニズムはいかなるものか、低温という新たな蠕動抑制の手段が実臨床で有用であるか。これらが本研究課題の核心をなす問いである。小腸蠕動のメカニズムを解明するため、消化管内視鏡より回腸末端に15℃の水を患者の消化管粘膜に直接散布することで腸管蠕動に変化が生じるか前向きの無作為化比較試験を開始している。15℃と室温水の消化管内局所投与で2群にランダムに振り分けを行い、録画で局所投与の前後での消化管蠕動を評価する計画を立て、現在症例を集積している。これまでの中間報告を第61回日本小腸学会にて発表した。今後予定症例数まで症例を集積し低温における小腸蠕動抑制を臨床研究として確認し、ラットおよびノックアウトマウスを用いた基礎研究で小腸蠕動のメカニズムを解明することを計画している。本研究でTRPチャネルを介した消化管蠕動抑制のメカニズムが明らかになる可能性があり、消化管内視鏡における新たな消化管蠕動抑制の手段の開発に寄与する可能性がある。
2: おおむね順調に進展している
小腸蠕動に対する低温の影響を精査するため、回腸末端に低温水を散布し腸蠕動の変化を観察する臨床研究について当院における倫理委員会の承認を得たうえで(承認番号:2022-10-05)、大学病院医療情報ネットワークに登録のうえ(UMIN000030725)、研究を開始している。中間報告を第61回日本小腸学会にて発表した。現在症例集積を継続している。
進行中の臨床研究の症例集積をすすめ、解析する予定である。低温における小腸蠕動抑制を臨床試験にて確認できたうえで、ラットおよびノックアウトマウスを用いた基礎研究にて小腸蠕動のメカニズム解明につなげることを計画している。
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