研究課題
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研究代表者はこれまでに、慢性炎症を惹起する責任因子として、残存HIVの微弱な転写活性や腸内細菌叢のdysbiosisの存在を示してきた。これらの知見は、残存ウイルスの複製および腸管免疫の持続的な活性化、dysbiosisに起因する腸管粘膜のバリア機能障害などの悪循環が患者体内で持続している可能性を示唆しているが、その詳細の理解は不十分である。本研究では、HIV感染によって生じる腸内環境変化が、如何にして腸管粘膜バリア機能を障害し、腸内細菌の異所性感染につながるのかという一連の分子基盤の理解を通じ、dysbiosisを主軸としたHIV感染症における慢性炎症惹起の理解を試みる。
本研究では、微弱なウイルス複製に伴う持続的な腸管免疫の活性化と、腸管粘膜上皮の腸内細菌叢の破綻に起因すると考えられる腸管バリア機能の低下 (leaky gut) による細菌群の血中への侵入(腸内細菌の異所性感染)が、相加的かつ互いに刺激しあう悪循環が起きている可能性を念頭に、腸内細菌叢の破綻を背景とした慢性炎症の維持機構についての検証に取り組んでいる。腸内細菌が分泌する細胞外小胞にはDNAや二次代謝産物など細菌由来の生理活性物質が含まれている。今年度は急性ウイルス感染症のモデルとしてSARS-CoV-2 感染者の便検体を用いて、感染後の分泌BEVの変化や病態との関係について解析を行った。また、同一の便検体を用いて腸内細菌叢を構成する細菌についても解析を行い、BEVの分泌量の変化と腸内細菌叢の変化の関連について解析した。健常人およびSARS-CoV-2 感染者の便検体から細菌ゲノムおよび腸内細菌由来の細胞外小胞(BEV)を精製し、細菌ゲノムおよび小胞に含まれているDNAの16S rRNA遺伝子 V3-V4 領域を次世代シークエンサーで解読した。これにより、腸内細菌叢の構成やBEVの分泌元細菌の同定を行った。解析の結果、BEV分泌量の変化は、腸内細菌の存減に単純に依存するものではないことや、特定の細菌由来のBEVの分泌量がSARS-CoV-2 感染者において増加・減少していることや、分泌量と病態に関連があることが見出された。
3: やや遅れている
検体数の関係から、SARS-CoV-2 感染者の便検体を用いて病態や炎症レベルとBEVの関係について評価を行った。当初の予定であるHIV感染者における解析は、今年度確立できた検出系を用いて着手する予定である。
腸内細菌叢の破綻と慢性炎症を結びつける分子機構については未解明な点が多いが、細菌の放出する多様な生理活性物質が含まれる細胞外小胞が細菌叢の破綻によって変化することで粘膜免疫細胞の活性化につながる可能性がある。今後は、血漿中の炎症性サイトカインの分泌量とBEVの校正についての比較検証を行う。また、今年度確立した技術を用いてHIV感染者におけるBEVの構成と慢性炎症に関する解析を展開する。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件)
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