研究課題/領域番号 |
22K20983
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0907:口腔科学およびその関連分野
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
近藤 威 東北大学, 歯学研究科, 助教 (40964226)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 自然リンパ球 ILC / 歯周炎 |
研究開始時の研究の概要 |
近年,クローン病や喘息などの免疫疾患において,T細胞やB細胞とは別の新たな細胞集団である,自然リンパ球 Innate lymphoid cell (ILC) が重要な役割を果たすことが報告され,粘膜組織の炎症反応において注目を集めている.これまでに我々はマウスにおける歯周炎確立期にILCが出現し,他の免疫細胞を活性化する遺伝子を多く発現する知見を得ている.そこで申請者は,ILCが口腔粘膜の慢性炎症疾患である歯周炎において重要な役割を果たし,歯周炎メカニズム解明の新たな鍵となると考えた.本研究では遺伝子改変マウスを用いて歯周炎を惹起させ,ILCが歯周炎進行に与える影響を明らかにする.
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研究実績の概要 |
近年,クローン病や喘息などの免疫疾患において,T細胞やB細胞とは別の新たな細胞集団である,自然リンパ球 Innate lymphoid cell (ILC) が重要な役割を果たすことが報告され,粘膜組織の炎症反応において注目を集めている.これまでに我々はマウスにおける歯周炎確立期にILCが出現し,他の免疫細胞を活性化する遺伝子を多く発現する知見を得ている.そこで申請者は,ILCが口腔粘膜の慢性炎症疾患である歯周炎において重要な役割を果たし,歯周炎メカニズム解明の新たな鍵となると考えた.本研究では遺伝子改変マウスを用いて歯周炎を惹起させ,ILCが歯周炎進行に与える影響を明らかにすることを目的として実験を行った. フローサイトメトリーの結果,歯周炎を惹起させると野生型マウスの歯肉において, ILC3sの数が著しく上昇することを明らかにした.また,このILC3集団は骨吸収を促進するIl17aを強く発現したことから,このILC3sが歯周炎進行における骨吸収に大きく関与する可能性が示された. 歯周炎進行におけるILC3sの機能を調べる目的で,野生型マウスに加え,T細胞を欠損したRag2-/-マウスおよびT細胞およびILCsを欠損したIl2rg-/-Rag2-/-を用いて歯周炎を惹起させた.その結果,組織学的には野生型マウスと比較してRag2-/-マウスにおいて根尖部歯槽骨の破骨細胞の数が有意に減少したが,辺縁歯槽骨の破骨細胞の数は減少しなかった.一方,Il2rg-/-Rag2-/-マウスでは野生型マウスと比較して根尖部歯槽骨および辺縁歯槽骨の細胞の数がともに有意に減少した.以上の結果から,マウス歯周炎モデルにおいてT細胞は主に根尖部歯槽骨の破骨細胞を活性化し,ILC3sは主に辺縁歯槽骨の破骨細胞を活性化することで,歯槽骨吸収を促進する可能性が示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
自然リンパ球ILCは転写因子,分泌するサイトカインなどによってILC1,ILC2,ILC3の3つのグループに分けられ,それぞれ Th1,Th2,Th17細胞と類似した性質を有する.そこれ我々はまず野生型マウスの健康な歯肉と上顎臼歯に絹糸を結紮することで歯周炎を惹起させた歯肉からそれぞれシングルセルを回収し,ILC集団の特定に用いられる細胞表面マーカーに対する抗体を利用してフローサイトメトリーを行った.その結果,健康な歯肉と比較して歯周炎惹起後7日目の歯肉においてILCsの数が上昇し,特にILC3sの数が著しく上昇することを明らかにした.また,このILC3集団は骨吸収を促進するIl17aを強く発現したことから,このILC3sが歯周炎進行における骨吸収に大きく関与する可能性が示された. 次に歯周炎進行におけるILC3sの機能を調べる目的で,野生型マウスに加え,T細胞を欠損したRag2-/-マウスおよびT細胞およびILCsを欠損したIl2rg-/-Rag2-/-を用いて歯周炎を惹起させた.その結果,野生型マウスと比較してRag2-/-マウスにおいて歯槽骨吸収は有意に抑制され,Il2rg-/-Rag2-/-マウスではRag2-/-マウスよりもさらに歯槽骨吸収が抑制された.また,脱灰組織切片をTRAP染色すると,組織学的には野生型マウスと比較してRag2-/-マウスにおいて辺縁歯槽骨のTRAP+破骨細胞の数は減少しなかったが,根尖部歯槽骨のTRAP+破骨細胞の数が有意に減少した.一方,Il2rg-/-Rag2-/-マウスでは野生型マウスと比較して辺縁歯槽骨および根尖部歯槽骨のTRAP+破骨細胞の数がともに有意に減少した.以上の結果から,マウス歯周炎モデルにおいてT細胞は主に根尖部歯槽骨の破骨細胞を活性化し,ILC3sは主に辺縁歯槽骨の破骨細胞を活性化することが示唆された.
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今後の研究の推進方策 |
我々はこれまでに歯周炎を惹起させると野生型マウスの歯肉において,自然リンパ球ILCが出現し,特にILC3sの数が著しく上昇することを明らかにした.また,このILC3集団は骨吸収を促進するIl17aを強く発現したことから,このILC3sが歯周炎進行における骨吸収に大きく関与する可能性が示された.さらにT細胞を欠損したRag2-/-マウスおよびT細胞およびILCsを欠損したIl2rg-/-Rag2-/-を用いた実験の結果からマウス歯周炎モデルにおいてT細胞は主に根尖部歯槽骨の破骨細胞を活性化し,ILC3sは主に辺縁歯槽骨の破骨細胞を活性化することで,歯槽骨吸収を促進する可能性が示唆された. 口腔粘膜における免疫機構は非常に複雑であり,多くの細胞集団がこれに関与すると考えられる.今後はマウス歯周炎進行過程において様々な細胞集団によるILC3sの制御機構を解明したいと考えている.シングルセルRNAシーケンス解析は細胞単位での遺伝子発現評価が可能であり,不均一な細胞集団の機能や細胞間相互作用の解明に大きく寄与できることから,我々はシングルセルRNAシークエンス解析を用いてILC3sを中心とした口腔粘膜の生体防御機構解明を行う予定である. 我々はシングルセルRNAシークエンス解析において重要なコンピュータ解析方法をすでに確立している.そこで歯周炎を惹起させた野生型マウスの歯肉からシングルセルを回収し, シングルセルRNAシークエンス解析を行い,それぞれのマウスにおける各種細胞集団の解明およびILC3sとの相互作用を一細胞レベルで明らかにする.
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