研究実績の概要 |
Muse細胞は皮膚、骨髄、血液、各臓器の結合組織に存在する内因性多能性幹細胞である。Sox2, Nanog, Oct3/4などの多能性因子を発現し、多能性幹細胞表面マーカーSSEA3の陽性細胞として同定、採取できる。外胚葉性、内胚葉性、中胚葉性の細胞への分化と自己複製能を1細胞レベルで示すが、生体に備わっているため腫瘍性を持たない。脳梗塞や心筋梗塞などの疾患への治験も実施されている。 Muse細胞は幹細胞としてユニークな性質を有しており、その一つとしてストレス耐性が挙げられる。イタリアCampania大学のGalderisi教授(Domenico Aprile博士の所属機関)とは過去8年にわたり共同研究を行い、Muse細胞では抗ストレス蛋白の発現が高いこと (Cell Cycle, 2017)を明らかにした。Galderisi教授からは間葉系幹細胞では48時間かかるがMuse細胞では修復酵素活性が高いため6時間前後でDNAを修復することが示された(Alessio et al., Oncotarget, 2018) 。 Muse細胞は傷害・死細胞を貪食し、被貪食細胞の分化シグナルを再利用して傷害細胞と同じ細胞種に分化し、健常細胞に置換することで組織を修復する。よって、Muse細胞は組織環境や疾患による傷害細胞を反映することが推察され、患者由来Muse細胞を解析することで疾患のメカニズムや治療法の開発などが可能になると期待される。本研究ではDNA修復機構因子に変異がある患者由来Muse細胞と健常者Muse細胞とを比較し、分子生物学的及び生理学的特性を調べてMuse細胞が疾患反映するのか、また病態解析や治療法開発のツールとなり得るかを検討した。
|